コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2006/08/18up)




◆ 楽しく共謀罪に反対したい

〈『部落解放』2006年8月号掲載〉

寺澤 有

 二〇〇三年以来、与党(自民党・公明党)と法務省、警察庁は共謀罪法案なるものを成立させようと躍起である。
 この法律のコンセプトは「二人以上が罪を犯そうと共謀していたと捜査機関が認定すれば、逮捕できる」というもの。もちろん市民を逮捕するには、裁判所が発行する逮捕状が必要だ。
 しかし、日本の裁判所は、警察や検察が請求する逮捕状の九九・九六%(二〇〇四年)を認めている。「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない」という日本国憲法第三三条はなんともむなしく響く。
 与党などは、共謀罪法案が「暴力団対策」「テロ対策」のために必要だと主張する。しかし、同様の理由から一九九九年に制定された盗聴法(通信傍受法)が、「薬物」「銃器」「集団密航」「組織的な殺人」の四つの犯罪だけを対象としているのと比較し、共謀罪法案は「最高刑が禁固・懲役四年以上」の六百以上もの犯罪を対象としている。
 国会審議でも、与党議員から「OL二人が万引き(窃盗)の相談をしても、共謀罪が適用されかねない」と疑義が呈されるほど、その対象は広い。よくマスコミが取り上げているが、会社員が居酒屋で意気投合し、「明日、ムカつく上司をボコボコにしてやろう」と話しても、共謀罪が適用される余地はある。「自分は暴力団員でもテロリストでもないから無関係」などと看過できない法律だ。
 逆に、共謀罪法案が成立すれば、「共謀を立証するため」と称して、盗聴法が改正され、こちらも六百以上もの犯罪が対象となるであろう。共謀罪と盗聴法が組み合わさると、警察や検察がつけ狙う人間は、まず逮捕を免れない。市民がおちおち政権批判、行政批判、大企業批判などしていられなくなる。
 昨年六月、『「治安国家」拒否宣言―「共謀罪」がやってくる』(晶文社)が出版された。編著者は斎藤貴男氏(ジャーナリスト)と沢田竜夫氏(フリーライター)。私も「共謀罪と盗聴法」という文章を寄稿している。
 その前後、沢田氏(五〇代)から「寺澤クンたちの世代(三〇代)が中心となり、共謀罪反対運動を盛り上げてほしい」と言われた。私は、学生運動や市民運動とはまったく縁がなく(我々の世代の大半はそうだろう)、ちゅうちょしたものの、当時、共謀罪法案が存在すら知られないまま、国会で成立しそうであり、やむにやまれず、「運動」というものをはじめてみた。
 同世代のフリーランスが集まり(マスコミ企業社員は、時間が自由にならなかったり、「運動」に参加することが社内で白眼視されたりするので、声がかけづらい)、いろいろ話し合った結果、「とにかく、自分たちもまわりの人たちも、楽しめる『運動』にしよう」ということになった。
 さらに、プロ・アマ問わず、いかなる表現活動を行う者でも、共謀罪に反対ならば、広く参加を呼びかけた。
 同年十月二十二日、宮下公園(東京都渋谷区)で「共謀罪に反対する表現者たちの集い」を開催した。出演者は、ミュージシャン、画家、映画監督、法律学者、ジャーナリスト、労働組合員など、二十数名。このイベントのDVD(自主制作・一枚千円)も十二月に発売され、半年間で約七百枚を販売している。
 本年四月から『共謀罪、その後』という連続映画もインターネットで無料公開中だ。これは、共謀罪法案が成立し、政府が「表現の自由」を弾圧する姿を描いている。
 五月と六月、「アンチ共謀罪ガールズ」というメイド姿の女性たちが、「オタクの聖地」と呼ばれる中野と秋葉原で、「共謀罪反対」を訴えるビラを配った。通行人が握手を求めてきたり、一緒に記念撮影したりするなど、注目度は満点だった。
 こうした運動も一助となっているのか、与党が圧倒的な多数を占める国会で、いまだに共謀罪法案は成立していない。次回国会でも共謀罪法案は審議されるが、我々は楽しく反対運動を続けていく。 (てらさわ・ゆう/ジャーナリスト)

記事中のDVDと映画については、寺澤有氏のブログを参照してください
http://incidents.cocolog-nifty.com/the_incidents/  


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