コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2007/06/27up)




◆ 非国民から安倍晋三へ

〈『部落解放』2006年11月号掲載〉

趙 博

 安倍晋三が自民党総裁に選出された翌日、九月二十一日に、ある裁判の判決があった。入学式や卒業式で、国旗に向かって起立し国歌を斉唱する義務がないことの確認などを求めた原告は東京都立高校などの教職員四百一人。被告は東京都と都教育委員会。東京地裁は、国歌斉唱などの義務がないことを認め、斉唱しないこと等を理由とした処分を禁じ、都に一人当たり三万円の損害賠償を命じた。判決理由で「国旗に向かって起立したくない教職員や国歌を斉唱したくない教職員に対し、懲戒処分をしてまで起立させ、斉唱させることは思想良心の自由を侵害する行き過ぎた措置だ。(中略)斉唱などを強制する教職員への職務命令も違法」という判断が示された。この勝訴が、市民・労組・平和団体・民主主義グループ等のねばり強い運動と闘いの成果であることは二言を要さない。石原慎太郎は「当然控訴しますよ」、せせら笑うように定例記者会見で宣い、小泉純一郎は「国歌も歌えない、国旗に敬意も表せない、こんなことでいいんでしょうかね?」寝ぼけ眼でほざいた。
 N・チョムスキーは語った。「今、市民的自由に対してくわえられている攻撃が治安とそんなに関係があるかどうかは疑問です。一般に、国家はあらゆる口実を使って権力を拡大しようとし人々に従順を強制しようとするものです。権利は勝ち取られたものであって、与えられたものではありません。そして、権力は人々の権利を弱めようとあらゆる機会を求めています。米国政府の現在のスタッフは過激な反動的攻撃的愛国主義者で民主主義への軽蔑に満ちた人々です。私が思うに、提起すべき質問とは、市民はどこまで政府スタッフが自らの政策を推し進めることを許容するかというものでしょう。これまでのところ、政府スタッフは、移民のような社会的弱者のみを攻撃対象とするよう注意してきましたが、彼ら/彼女らが採択した法律はもっともっと広い範囲に影響を及ぼしうるものです」(「対テロ戦争」インタビュー/二〇〇二年七月三日/益岡賢 氏・訳)。
 安倍晋三新首相は、まず何よりも「教育改革と憲法改正をやる」と明言している。つまり、現行の教育基本法と日本国憲法を潰すと言うのだ。そして、彼のスローガン「再チャレンジ」は、「負け犬よ、もう一度闘わせてやるから後はテメェの問題だぞ」の言い換えで、「自己責任」の焼き直しにすぎない。安倍晋三の辞書に「平和・人権・友好・共生」はない。そのかわり「戦争・特権・征服・支配」がある。彼の耳には、「福祉」という言葉が「甘え」に、「協調」は「後退」に、「妥協」は「敗北」と聞こえる。
 浅井基文・広島平和研究所長は述べた。「第一、小泉政治には政治哲学・信条という名に値する内容は皆無であったのに対し、安倍政治は極めて右翼的イデオロギーが濃厚であること。(中略)第二、小泉には明確な歴史観の裏付けはなかったのに対し、安倍は靖国史観に傾斜する極めて反動的な歴史観に裏打ちされた認識を持っていること。(中略)第三、小泉における対米一辺倒はブッシュとの個人的親交(ブッシュがそれに対応する感情を小泉に対して持っていたかどうかはここでの問題ではない)という感情的要素に裏打ちされていたのに対し、安倍の対米重視は世界一の超大国・アメリカに一目も二目も置くという権力政治の発想に基づいていること」(コラム「保守支配の日本政治と問われる被爆2市の存在理由」より引用)。
 安倍晋三は書いた。「国のために死ぬことを宿命づけられた特攻隊の若者たちは、敵艦にむかって何を思い、なんといって、散っていったのだろうか。(略)死を目前にした瞬間、愛しい人のことを想いつつも、日本という国の悠久の歴史が続くことを願ったのである」(『美しい国へ』)「命を投げうってでも守ろうとする人がいない限り、国家は成り立ちません。その人の歩みを顕彰することを国家が放棄したら、誰が国のために汗や血を流すかということです」(『この国を守る決意』)。
 安倍晋三の父・安倍晋太郎は政府自民党の要職を歴任した「自民党ニューリーダー」だった。母・洋子はA級戦犯容疑者であり「昭和の妖怪」の異名を取った岸信介の長女。佐藤栄作(元・首相)は岸信介の弟だから晋三の大叔父である。兄・寛信はウシオ電機会長牛尾治朗の長女・幸子と結婚した。弟・岸信夫は参議院議員で、妻・昭恵は森永製菓社長松崎昭雄の長女である。己の血筋と家系への誇りを胸に、安倍晋三は、堂々と国民に向かって牙をむく覚悟だ。
 私の血統と家系は名実共に非国民であって、過去は帝国臣民、現在は外国人という身分を日本国家から押し戴いた「在日韓国人」なるモノである。安倍晋三の政治信条や政策の片隅にも「在日」は存在しない。『美しい国』になれば、私は真っ先に殺されるだろう。だから闘うのだ! 私は安倍晋三を殺しはしないが、夜郎自大のボンコ如きに殺されるわけにはいかない。私と安倍晋三とは同世代である。
(ちょう・ばく/歌劇派芸人)

趙 博
http://fanto.org

益岡賢
http://www.jca.apc.org/~kmasuoka/

浅井基文
http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/index.html


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