コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2007/06/27up)




◆ 「ウワシン」魂は死なず

〈『部落解放』2007年5月号掲載〉

岡留安則

 早いもので『噂の眞相』が休刊してまる三年が経過した。この間、CS局の朝日ニュースターで「TVウワサの眞相」のコメンテーターをつとめてきた。そのため、二五年間の編集者生活にひと区切りつけてしばらく人生の休養をとろうという当初の目論見は達成できなかった。スキャンダル雑誌の編集長を二五年つとめた後、自分なりのソーカツの意味で『「噂の眞相」25年事件史』(集英社新書)を出版した直後に始まったのが、この朝日ニュースターの新番組だった。筆者がこれまで活字を通してやってきたタブーへのチャレンジという試みをテレビでやって欲しいという依頼を受けたためだ。企画を持ち込んできた二人のプロデューサーの熱心な説得工作に押し切られる形で番組が始まった時、ちょうど雑誌休刊から一年が経過していた。
 この番組開始を待ち構えたようにタイミングよく、『噂の眞相』で唯一例外的に刑事裁判としての闘いを余儀なくされて最高裁まで上告していた案件の判決が下された。その判決内容は、「懲役八カ月、執行猶予二年」というものだ。この刑事裁判は、当時の東京地検・宗像紀夫特捜部長が『噂の眞相』に批判記事を書かれたことを根に持っていたため、和久峻三、西川りゅうじんという二人の作家・文化人が別々に東京地検特捜部に直告していた案件を、私憤がらみで「併合起訴」したものである。いくら検察が理不尽な動機や国策捜査で起訴しても、裁判所は「司法の独立」も「法の正義」も関係なく判決を書くのが通例だ。いわゆる「裁検一体」という馴れ合い、癒着体質があるからである。検察に起訴されたら九九パーセントの確率で有罪判決になるという日本の司法の現実が何よりの証明である。ホリエモンのライブドア事件、鈴木宗男議員に連座する形で起訴された佐藤優外務省分析官のような国策捜査ともなれば、事実かどうかよりも政治判断で裁かれることが圧倒的だ。『噂の眞相』もその意味では、捜査権と公訴権をあわせ持つ日本の最高権力機関ともいえる検察幹部の怒りを買って国策捜査なみの感情的な意趣返しで公訴されたのである。
 むろん、この裁判じたいに納得がいかない以上、判決結果に一切とらわれることなく朝日ニュースターというテレビにおいても検察・警察から天皇制までメディアタブーに挑戦し続けた。しかし、このテレビ番組もまる二年間やってきたのでこの辺で撤退させてもらい、「休番」扱いにしてもらうことにした。月イチの番組収録とはいえ、その度に移住先の沖縄から上京しなければならない。どこかでケジメをつけないと、このままではなんのために黒字休刊に踏み切ったのかだんだんわからなくなる。朝日ニュースターにおけるタブーへの挑戦という番組づくりでは、大方やりたいことはやってきたし、それなりの評価もしてもらった。多少心残りだったことといえば「部落問題のタブー」をやらなかったことぐらいだ。
 『噂の眞相』の誌面では、メディアが取り上げない部落問題がらみのタブーに何回も挑戦してきた。休刊直前には、一度はやりたいと思っていた「部落出身の芸能・スポーツ人脈」もやった。誤解なきよういっておくと、筆者は差別問題に関する認識はきちんと持っているつもりだ。それでも部落解放同盟という運動体がタブーになることはマイナスのベクトルである。組織的に問題点や矛盾があれば、そこにスポットを当てて表に出すことでしか運動体の健全化をはかれないというのが筆者の見解だった。
 しかし、今となればそれ以上に問題なのは、小泉、安倍と続く政権が目指す新自由主義路線の行方である。在日米軍再編、規制緩和政策、教育基本法改正、憲法改正、あらゆる政策の行き着く先は格差社会というレベルではなく、明確な米国型階級社会への道である。いずれ日本も戦争は政治・外交・経済の延長として日米共同で軍事行動を展開していくだろうし、逆に「下流社会」や貧困層による自暴自棄的な凶悪事件が多発して社会の退廃、不安定化がより一層促進されることは、米国の先例をみれば一目瞭然である。  そうした日本の行く末に「NO!」を発するのは、差別社会の固定化と進展を狙う政府・支配層に対する徹底した反撃でしかない。朝日ニュースターをやっている間に執行猶予も無事に終了したことで前科も消えた。自由な言論活動のための条件のひとつはととのった。しかし、これから『噂の眞相』を再刊するにしても、もう一度テレビをやるにせよ、この際、しばし人生の休養期間をあえて取ることにした。
 まさに、日本が歩んでいる将来に対する筆者の憂慮感を、「今、メディアとして何をなすべきか」という問題意識に貫かれた対抗軸として設定すべき段階にあり、そのためにも緻密なメディア戦略を今一度思慮して組み立てる必要があるからだ。部落解放運動とて、同じはずである。
(おかどめ・やすのり/元『噂の眞相』編集長・発行人、ジャーナリスト)

岡留安則の「東京−沖縄−アジア」幻視行日記
http://www.uwashin.com/2004/indexdiary.html

朝日ニュースター
http://www.asahi-newstar.com/


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