コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2007/11/28up)




◆ 野球特待生制度は害あって利なし

〈『部落解放』2007年11月号掲載〉

谷口源太郎

大揺れする日本高野連の姿勢
 日本高校野球連盟(以下、日本高野連)は、当初、学生野球憲章違反を根拠に野球特待生制度を全面的に解消するという強硬姿勢だったが、その後、基準をつくることで同制度を容認する方向へ姿勢を緩めていった。
 学生野球憲章一三条では「選手又は部員は、いかなる名義によるものであっても、他から選手又は部員であることを理由として支給され又は貸与されるものと認められる学費、生活費その他の金品を受けることができない」と規定されている。
 学費免除などを含む特待生制度がこの規定に違反しているのは明らかだ。それにもかかわらず、多くの私学が高校野球の頂点として特権化された甲子園大会への出場による知名度やイメージアップで生徒集めを有利にするという経営論理から特待生制度を実施した。そこには、学生憲章違反という意識はない。
 加盟四二〇〇校のうち学生憲章違反の特待生制度を実施している学校は三七六校(公立一校)、特待生の数は七九七一人にものぼった。
 これほど広範に憲章違反がまかり通っているにもかかわらず、現在までチェックできなかったことは、日本高野連の重大な責任といわなければならない。
 その決定的な弱みを突かれ、さらに「特待生制度は学校経営の要であり、今さら解消はできない」という私学側からの強い反発を受け、腰砕けとなった日本高野連は、第三者機関(高校野球特待生問題有識者会議/委員一五名)に議論を委ねてしまったのだ。ただ、そこでの議論のなかで特待生制度の孕んでいる金品にかかわることばかりでなく、選手の商品化による人間性疎外、あるいは反教育性などの本質的な問題について、どこまで突っ込んだ議論、検証がなされるのか大いに疑問だ。
 おそらく、有識者会議の報告を踏まえて一一月末に出される最終結論では、特待生制度そのものが否定されることはなかろう。

克服されていない野球有害論
 一世紀近く前に、朝日新聞が全国の中学校を対象に、野球について「有利」か「有害」かを調査した結果を掲載した。
 回答した九八校は次のようなとらえ方をした。
 利害ともに在り其比較程度不明 一一校
 害ありて利なし         九校
 弊害利より更に大なり     六四校
 利ある者            七校
 利害を認めず          三校
 圧倒的に多くの中学校が有害、弊害と回答しているが、その理由はどういうことなのか(以下引用)。
 第一 多大の時間と場所を要するの欠点あること/第二 興味あるだけ熱中しやすく、従って学業の成績不良に赴くこと/第三 粗暴に流れ虚栄に傾き、酒食に耽り、品性劣悪に傾く傾向あること/第四 少数の選手によりて広き運動場を占有され一般学生の運動を妨害すること/第五 近時流行の応援の如きも、一校の学生をして不規則、不真面目に陥らしむること/第六 身体の発育に不自然を来たし(中略)対抗試合に至っては一層其弊害が多い、要するに学生の遊戯として多大の弊害を伴う
 一世紀も前に指摘された野球の有害、弊害論だが、現状と驚くほど照応しているではないか。
 戦後、学生野球憲章ができたり、故佐伯達夫会長の掲げた「高校野球は教育の一環」を日本高野連は基本理念としてきたが、いっこうに有害や弊害は克服されていない。それどころか、特待生制度の実施によって有害、弊害は深化、拡大したといえるのではないか。 勝利至上主義と市場原理主義  元広島大学教授・中村敏雄氏は、著書『日本的スポーツ環境批判』(大修館書店)で、こう指摘する。
 「勝利至上主義を核心とする『スポーツの論理』が『教育の論理』を圧迫・支配し、それが社会的承認を得るとき、いわゆる『部活問題』はいつでも、どこでも発生し、エスカレートし、その改善はつねに『もぐら叩き』に終わる。したがってこれの根本的な解決策が追求され実践されないかぎり同じような問題が永遠にくり返されることになる」
 その勝利至上主義は、教育にまで介入した市場原理主義によって、より一層強化されている。市場原理主義は、弱肉強食の競争によって否応なく勝ち組/負け組を作りだす。ごく少数の勝ち組は特権意識を植え付けられ、自己中心主義に陥りやすくなる。圧倒的に多い負け組は使い捨てにされ、切り捨てられ、挙げ句の果てに見捨てられ、落ちこぼれていく。
 野球特待生制度は、まさにそれを象徴するシステムといえるのではなかろうか。勝利至上主義や市場原理主義に基づくそのシステムを根本から変えないかぎり、高校野球は教育たりえない。
 高校野球が教育としての役割を果たすためには、勝敗だけに固執することなく、楽しさ、喜び、苦しさ、痛みを共感・共有し、相互理解や連帯を促進することを可能にする考え方を追求し実践することではなかろうか。

(たにぐち・げんたろう/スポーツジャーナリスト)


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