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◆ 「亡国」のトヨタ方式
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〈『部落解放』2008年1月号掲載〉
横田 一
トヨタ自動車をお手本にすれば、企業は繁栄し、役所も効率化する――そんな“トヨタ信仰”が日本中に広まりつつある。新聞を見開けば、「新工場建設」や「利益二兆円」や「世界一のGMを抜いた」といった記事が目に飛び込み、書店にはジャストインタイムをはじめとする「トヨタ生産方式」を称賛する本が並ぶ。そして『ザ・トヨタウェイ』の上下本が平積みになっている大型書店では、背広姿のビジネスマンが次々と手に取っていく。背表紙は「だから、強い!
世界最強のメーカーを支える一四の法則を徹底解明」で、グローバル経済を生き抜くためのバイブルのような趣を漂わせているのだ。
実際、トヨタ方式は、郵政公社や地方自治体や企業に導入され、トヨタ出身者は一流経営コンサルタントのような存在として引っ張りだこである。
しかし私には、トヨタ方式が広がることが日本人の幸せにつながるとは、とても思えない。このことは、週刊金曜日で『トヨタの正体』という連載をした時に実感し、今や確信に変わりつつある。
ここで、トヨタの生産現場で起きた非人間的な「事件」を紹介したい。
一人の期間工のAさんが豊田市を去った。トヨタでの勤務は二年間。これまでは、比較的仕事が楽な物流部門で働いていた。しかしプリウスやカムリを生産する「堤工場」に配属が変わり、仕事の内容が一変した。世界が絶賛する「トヨタ生産方式」が浸透するラインに組み込まれたからだ。
そこは、極限まで無駄を省いた、一秒に追われる作業の連続だった。Aさんはボルトにワッシャーの止め具をはめ込む作業を担当していたが、不慣れなため時間内に終わらない。ラインが合理化され、余裕がなくなったことも拍車をかけた。
「何をやっているのだ。もっと早くやれ! 後ろがつかえているのだ」と容赦なく班長の罵声が飛ぶ。
「コツさえ習得すれば、すんなり入る」とベテラン社員は教えてくれたが、現場では新人に等しいAさんは焦って力づくで押し込んでしまう。それで、とうとう腱鞘炎になってしまった。
医者は「これでは作業ができない。当分、静養しなさい」と診断したが、上司は「とにかく会社は休むな。ラインの横で座って見ていろ!」と命令した。腱鞘炎で休日を取ると労災になってしまうからだ。
この日からAさんの地獄の日々が始まった。傍目には腱鞘炎であることはわからない。当然、同僚から「一人でサボりやがって」という冷たい視線を浴びる。さらし者状態となったAさんは、精神的に耐えられなくなって退社を申し出た。
しかし、上司は「休日に腱鞘炎になった。退社とは関係ないことにしてくれ」と注文をつけてきた。見かねた同僚が「労基署に申し出れば、労災に認定される」と助言したが、気弱で優しいタイプのAさんは「そう思ってくれるだけでありがとう」と言って、実家に戻った。上司の事実歪曲の要請を受けて、「円満退社」となったのである。
いくら経営指標が抜群であっても、非人間的な職場環境が当たり前のトヨタ方式が広がれば、Aさんのような不幸な目にあう機会が増えていくのは確実だ。
日本の「ものづくり」の根幹を揺るがすことも十分に考えられる。トヨタではここ数年、年間一〇〇万台に達する自社製品の欠陥に対する無償回収・修理を国土交通省に届け出ている。なぜ、欠陥車がこれほどまでに多いのか。その一因が「トヨタ生産方式」であるのは間違いない。
現場のトヨタマンはこう話す。
「社員を極限まで酷使するトヨタ生産方式は、品質管理の形骸化を招いています。時間的余裕がなさすぎるため、形だけのチェックになってしまい、同じ部品に付け忘れなどのミスが恒常的に起きているのです」
またコストダウンのために、現場の四割以上が非正規雇用の従業員になっている。ワーキングプアや格差拡大を助長していると同時に、短期間で辞める期間工も多いため、「熟練工の経験を若い世代に受け継ぐ職場環境になっていない」という問題もある。
さらに生産効率最優先のトヨタ生産方式により、うつ病になったり、過労死したり、安全装置の外されたプレス機内で圧死する労災も発生している。
結局、莫大な利益を叩き出す原動力の「トヨタ方式」は、大きなマイナス面をあわせ持つのだ。
本来なら報道機関は、トヨタ方式を「莫大な利益を生み出す源」などと称賛するだけでなく、マイナス面についても公平に伝えるのが役割のはずである。しかし実際には、マスメディアがトヨタ批判をすることは滅多にない。
要するに、トヨタ方式の導入を検討するにしても、偏向報道がまかり通っていることを肝に銘じ、弊害の部分に目を向けておく必要があるのだ。
(よこた・はじめ/ジャーナリスト)
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