コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2008/11/12up)




◆ サミットの主役は誰か

〈『部落解放』2008年10月号掲載〉

伊田浩之

 お盆に帰省された方々の故郷はどうだっただろうか。私の実家がある愛媛は、帰省するたびに静かになっている、いや、寂れていると感じる。県庁所在地の松山ですら、人通りが減り、中心商店街に活気がない。少しにぎわっているのは、郊外にある大資本のスーパーぐらいではないか。
 規制緩和を掲げた「小泉改革」が地方を蝕む。大資本が好き勝手にできるようにしたのだから、地域を支え、その発展に貢献してきた中小企業が苦しくなるのは当然だ。原油高は農業・漁業を直撃している。また、過疎地域でほぼ唯一の金融機関だった郵便局も民営化された。統廃合が今後進み、さらに不便になるだろう。
 疲れゆく故郷をみながら、私は今年七月に取材で訪れた北海道を思い出していた。G8サミットが進める新自由主義に反対するため全世界から人々が集まった「祭り」が、そこにはあった。
 最大のイベントは、サミット二日前の七月五日に札幌市中心部で行なわれた「チャレンジ・ザ・G8サミット 一万人のピースウォーク」。呼びかけ文にはこうある。
 《北海道など行政は「おもてなしの心」を強調しています。しかし世界の軍事支出の七〇%、武器輸出の九〇%を占める軍事大国の集まりを、「もてなす」ことはできません》
 デモ前の集会ではビア・カンペシーナ(農民の道)のヘンリー・サラギ代表がこう訴えた。
 「世界中で飢餓が広がっています。G8サミットは一九九五年ごろから(資本に自由に振る舞わせる)新自由主義的性格を強め、農業は大きな被害を被っています。農作物を単なる“商品”として取り扱おうとしていますが、気候変動を解決するカギは小規模農業にこそあります」
 わずか八カ国の首脳とEU議長国首脳、欧州委員会委員長らが世界の将来を議論する「究極のトップダウン」。異議申し立ての声が上がるのは当然だろう。しかも、G8の「宣言」「決議」などは国際法上の根拠をなにひとつ持たない。いわば「仲間内の取り決め」にすぎない。それも先進国にとって都合のよい、さらにいえば先進国の富裕層にとって都合のよい取り決めである。
 真夏日のなかデモ前集会は続く。実行委員長で主催団体の一つ、「平和サミット北海道連絡会」の石田明義代表が声を張り上げる。
 「サミット参加国が責任を果たさないため、世界中で不公平・差別・戦争・環境破壊が止まりません。G8に反省を迫り、新しい行動を要求します。私たちはさまざまな意見の違いを超えてここに集まりました。交流し、意見を闘わせて、よりよい新しい世界をつくるために、共感を持って行動できるよう知恵を働かせたい」  大通公園に集まった約五〇〇〇人(主催者発表)から拍手が起こる。色とりどりの幟や横断幕が揺れる。荊冠旗も風にはためいている。そろいの浴衣に筵旗の農民連や、各国首脳の顔を模した「ビッグヘッド」、圏央道に反対する高尾山の天狗など、意匠を凝らしたいでたちの人たちもいる。  午後三時すぎに出発したデモ隊は、繁華街すすきのを抜け、中島公園までの約二キロを歩いた。
 さらに、サミット開幕にあわせ、洞爺湖近くの三カ所には「国際交流キャンプ」が設置され、キャンプを拠点としたデモが連日続いた。
 シンポジウムなど集会も数多い。NGO「G8サミット市民フォーラム北海道」関係だけでも、市民サミット行事が四四、関連行事が二六開かれた。その他のNGOの集会もある。右翼・左翼を含む多彩な団体のデモや街宣活動があり、平等と自由、民主主義に彩られた場が出現した。
 これらの祝祭的空間に暴力を加えたのは「国家」だった。入国管理局は、新千歳空港で入国を拒否した韓国・民主総連の幹部をはじめ、多くの人々の入国を厳しく制限した。最も露骨だったのは五日の「ピースウォーク」で、ロイター通信のカメラマンを含む四人を公務執行妨害などの容疑で逮捕している(全員不起訴)。『毎日』北海道版七月一〇日によると、北海道警の高橋清孝本部長は「逮捕者が出ることは想定しており準備はしていた。想定の範囲内だった」と話したという。しかし、デモを先導しているサウンドカーや近くの参加者らをしつこく挑発したのは、明らかに機動隊・警察側だった(逮捕時の動画などはいまもネット上で見られる)。
 だが、警察がいかに弾圧しようと、いや弾圧されたからこそ、G8サミットに、新自由主義に反対する人々の連帯は強まっているようにみえる。一人ひとりの力は小さくとも、国境を超えて連帯できることを、反サミット・対抗サミットの活動は見せつけた。
 故郷の無残な姿に落胆してばかりはいられない。新自由主義がもたらす災厄に対抗する知恵と行動が必要だ。解散総選挙は近い。

(いだ・ひろゆき/『週刊金曜日』副編集長)


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