コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2009/4/17up)




◆ ゴーマニストに告ぐ―まやかしだらけの右翼扇動家

〈『部落解放』2009年4月号掲載〉

目取真俊

 小林よしのりの卑劣さとまやかしの最たるものは、社会の中で差別や迫害を受けている少数派に、あたかも自分は味方であり良き理解者であるかのような顔をして近づき、自らの多数派としての価値観を丸出しにした漫画を描くこと。そして、その内容が当事者の少数派から批判されると、途端に逆ギレして攻撃を加えるところにある。
 被差別部落、薬害エイズ、台湾、チベット、沖縄、アイヌと、小林は少数派の問題をとっかえひっかえ漫画にしては、対立を引き起こすというパターンをくり返してきた。恥を知る能力と反省する能力の欠如が、「ゴーマニスト」としての小林の強みなのだろう。しかし、どんなに猫なで声で少数派に近づいても、右翼扇動家としての本性と多数派としての傲り、にわか勉強したにすぎない知識の浅はかさはすぐに露呈する。
 二〇〇四年八月から雑誌『SAPIO』で『新ゴーマニズム宣言SPECIAL沖縄論』(以下『沖縄論』)を連載した小林は、翌年、「カメジローの戦い」という盗作作品を付け加えて一冊にまとめ、八月には宜野湾市で講演会を行った。一〇〇〇名以上の参加者が集まった、と小林や地元の実行委員会メンバーらは、その頃得意の絶頂にあった。
 しかし、沖縄では同時期、小林の本性を明らかにし、『沖縄論』を批判する言論活動や、講演会にゲストとして参加しようとしていた糸数慶子参議院議員への説得活動などが行われていた。結果として、糸数議員はゲスト参加を見送った。講演会に一〇〇〇名以上が集まったといっても、その中には小林に批判的視点を持つ人も多かった。
 沖縄への浸透を図ろうとした小林にとって、全国の他の地域とは違う沖縄からの反発の強さ、批判の激しさは予想以上だったはずだ。しだいに小林は苛立ちと焦りを露わにし、沖縄に「全体主義の島」というレッテルを貼りつけ、沖縄のマスコミや知識人を口汚く罵り始める。しかし、そうやって感情的なデマ宣伝をやればやるほど、沖縄への理解者を装った小林の化けの皮が剥がれ、右翼扇動家としての本性が露わになっていった。
 そういう小林の苛立ちや焦り、本性がよく分かる本が、昨年六月に出た『誇りある沖縄へ』(小学館)である。沖縄では数少ない小林の協力者である宮城能彦(沖縄大学教授)、高里洋介(那覇市職員)、砥板芳行(八重山青年会議所前理事長)、匿名の卑怯者Aと小林の五名による座談会をまとめたものだ。企画・編集は小林自身が行っている。近年出版された沖縄関係の本で、これほど低水準かつ下劣な本も珍しい。
 当人たちは、沖縄のタブーを破り、マスコミや平和運動をやっつけ、歴史や社会問題への蘊蓄を披露しているつもりかもしれない。しかし、座談会形式で言いたい放題言ってるだけに、参加者たちの知識の乏しさや論理展開のいい加減さ、思想性、人間性の貧しさが余計に露わになっている。
 一例を挙げる。同書では、昨年二月に沖縄島中部で起こった米兵による女子中学生への暴行事件と、それに抗議して三月に開かれた県民大会について一章が設けられている。小林らがそこでやっているのは、加害者の米兵や米軍を擁護し、被害者の「落ち度」をあげつらって執拗に叩くことだ。
 この事件は、『週刊新潮』が被害者のプライバシーを侵害する記事を書き、それに精神的に追いつめられた被害者が、告訴を取り下げるという展開となった。犯人は日本の司法ではなく米軍の軍法会議で裁かれ、懲役四年の実刑判決を受けた。さらに服役後の不名誉除隊も決まった。そういう事件に対し、小林は次のように発言している。
 〈わしは基本的に世間から「反米派」と呼ばれる立場の人間だけど、今回の米軍の対応を見ていたら、ちょっと同情するぐらいの気持ちになるわけよ。レイプはなかったという前提で言うけど、「それでも許さん」と言う側のほうに、むしろ不愉快な印象を受ける〉(一五七頁)
 「反米派」が聞いて呆れる。日米安保体制を肯定し、米軍が沖縄・日本を守ってくれると信じている小林が、〈世間から「反米派」と呼ばれる〉のなら、それこそお笑いぐさだ。被害者の訴えを否定し、加害者の主張を丸呑みして〈レイプはなかった〉と強調する小林に、被害者やその家族は反論ができない。プライバシー侵害を恐れて被害者が沈黙するしかないのを承知の上で、小林らは「落ち度論」を展開し、ただでさえ弱い立場にある被害者を追いつめているのだ。
 小林が見せる、少数派の立場に立っているかのようなポーズも、「反米」ポーズも、まやかしにすぎない。小林が実際にやっているのは、反戦・反基地運動をたたかっている沖縄人を中傷して足を引っぱり、米軍を援助することなのだ。
 「カメジローの戦い」の盗作問題についても、逃げずにきちんと答えてほしいものだ。

(めどるま・しゅん/作家)

海鳴りの島から
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