コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2010/10/21up)




◆ World Open Heartの挑戦

〈『部落解放』2010年10月号掲載〉

阿部恭子

 二〇〇八年八月、自分では選択できない事情によって本来の力を発揮できずにいる社会的弱者や少数者をエンパワーしようと結成されたのが、World Open Heart(以下WOHと略す)である。社会的弱者や少数者、いわゆる「マイノリティ」と呼ばれる人々の自死対策として相談業務、人権啓発活動を行ってきた。WOHが支援の中心としてきた「マイノリティ」とは、「自ら選択できない属性を背負わされ、歴史的に差別されてきた人々」を指す。憲法第一四条に列挙されている人種、性別、社会的身分などがその例である。先行研究によれば、先住民や外国籍市民、発展途上国の女性、同性愛者や性同一性障害などの性的少数者など、社会的差別に晒されやすい集団には高い自殺率が見られる。
 自殺対策につながるセーフティーネットとしての、一定の集団に対する支援の中で、犯罪被害者やDV被害者に対する法整備がようやく始まり、支援体制が敷かれていく一方、犯罪加害者の家族が取り残されていることに気がついた。事件が起きたとき、その影響は被害者やその遺族にとどまらず、加害者の家族にまで及ぶ。WOHの拠点である東北地方においても、加害者の家族が職場を解雇されたり、自責の念から自殺に至るというケースが存在した。しかし、加害者の「家族」の存在は盲点となっており、直接的に支援を行う団体は日本に存在しなかった。
 日本には、かつて、家族のひとりが犯罪を行った場合、一家が連帯して責任を負わなくてはならない「縁座」という制度が存在した。今日でも、犯罪加害者の家族となった人々は、自ら罪を犯したわけではないにもかかわらず、犯罪者を出した「家」に属するがゆえに、社会から犯罪者同様の扱いを受け、「スティグマ(烙印)」を背負うことになる。
 先進諸国では、このような加害者・受刑者の家族を支援する団体の存在は珍しいものではない。先行研究によれば、加害者の家族が抱える問題として、経済的困難、社会的孤立、健康問題、低い自尊感情などが挙げられている。自責の念から自殺に至るというケースも世界的に起きている現象である。特に、事件当時、幼い子どもへの影響は深刻であり、受刑者の子どもへのカウンセリングの研究も進んでいる。
 具体的な支援として、ホットラインによる司法手続きなどの情報提供サービス、警察や裁判所、病院、行政の窓口などへの付き添い活動、面会にかかる資金の立て替え、子どもや家族のカウンセリングなどの心理的支援などが挙げられる。
 日本において、これまで支援団体が組織化されなかったのはなぜか。被害者支援をはじめ、さまざまな集団の権利が確立されるまでの運動は、当事者が主体となって進めてきた歴史がある。しかし、加害者家族の場合、「加害者側」であるという強い自責の念に縛られ、声を上げる力を奪われていることから、当事者による立ち上げは難しいと思われる。「辛い」「苦しい」「悲しい」という言葉を口にすることさえ許されない、支援など受ける資格がないと感じていることが、これまで加害者家族と接してきて明らかとなった。引っ越しや転校を余儀なくされ、見知らぬ土地に来ても、事件のことが人々に知られはしないかと不安な日々を送っている。
 子どもが犯罪者となってしまった「親」の場合、社会的批判は免れず、ひたすら自分を責める傾向にあり、自責の念から自殺に至るケースも目立つ。一方、兄弟や親が犯罪者となってしまった家族の場合、錯綜する感情の中に、巻き込まれてしまったという「不条理感」が存在する。犯罪者の子どもの場合、「将来自分も犯罪者になるのでは」という不安も少なからず存在している。
 WOHの行う「犯罪加害者家族支援」は、世間を騒がせたような特定のケースにとらわれることなく、当事者と社会のニーズに沿った支援内容にしていくために、当事者(加害者家族)や関係者(弁護士など)へのインタビューによる実態調査を行っている。加害者家族は社会的に声を上げることが困難な状況にあり、その実態はまだ見えない部分も多い。
 これまでのインタビューによって必要だという回答を得た、@司法手続きなどに関する情報提供を中心とした「ホットラインの開設」、A当事者が集う「わかちあい」、B裁判所などへの付き添い活動、などが現在行っている支援である。ここ数年間での実態調査とケースの蓄積により、日本における「犯罪加害者家族支援モデル」を構築したいと考えている。
 被害者支援もまだ始まったばかりで、けっして十分とはいえない。被害者やその家族の支援の方に力を注ぐべきであろうという批判もある。しかし、失業や家族の自殺は、残された家族を窮地に追いつめることであり、新たに犯罪を生む結果となりかねない。このような負の連鎖を断ち、「加害者本人」が更生できるような環境を作れるように家族を支援することは、再犯の防止にもつながる。「加害者家族」とは誰もがなりうる可能性があり、けっして他人事ではない。ひとつの事件から新たな被害者を生まないために、長期的な活動を続けていきたい。

(あべ・きょうこ/World Open Heart 代表)

World Open Heart http://www.worldopenheart.com/index2.html


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