コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2010/12/17up)




◆ バンコクでの教育里親活動

〈『部落解放』2010年12月号掲載〉

原田君子

 スタディツアー・タイ現地訪問。はやる気持ちをおさえながら、奨学生の待つ部屋へと向かう。自然と足早になる。「サワッディカー(こんにちは)」。奨学生たちは、はにかんだ笑顔で私たちを出迎え、待っていてくれる。この瞬間が、毎回心が躍る。
 「くるんて〜ぷの会」は、タイ・バンコクのクロントイ・スラムに住む、学校に通えない子どもたちに奨学金を通して支援活動を行なうNGOである。会が発足して今年度で一九年目をむかえた。奨学生に会いにタイを訪問するのはもう何度目になるだろうか。
 里親活動を始めてから今まで、奨学生全員が無事に卒業することを願い、持続可能な教育里親活動を行ってきた。福岡では老舗の部類に入るNGOだが、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかった。
 「くるんて〜ぷの会」は、前代表が立ち上げた「クルンテプの会」が始まりである。その前代表がバンコクで出会ったのが「ドゥアン・プラティープ財団」だった。
 タイ・バンコクの中で最大のスラム街と言われているクロントイ・スラム。当時一六歳だったプラティープ・ウンソンタム・秦さんが、家庭が貧しく学校に行けない、共働きの両親に面倒をみてもらえない、そんなスラムの子どもたちに文字の読み書きを教えたいと、一九六八年に自宅の一室から始めた。それが「一日一バーツ学校」となり、アジアのノーベル賞といわれる「マグサイサイ賞」を受賞、プラティープ財団となったのである。前代表はその活動に共感し、帰国後「一杯のコーヒー代をスラムの子どもたちに」という言葉をキャッチフレーズに、一九九二年に教育里親活動として「クルンテプの会」を発足した。
 前代表は会発足当時から癌と闘っていたが、一九九六年に他界した。前代表は「遺言」として「クルンテプの会」を友人の私に残していき、二代目代表に就任することになった。当時はまだNGOという言葉すらも知らなかった私は、「遺言」の言葉に会の責任の重さを感じ、戸惑い、どう運営していけばよいのかと毎日悩み続けていた。この頃、会員からの苦情の電話が相次ぎ、電話と人に恐怖心を感じ、数カ月家に籠った時期があった。
 しかし逃げていても解決はしないと思い、まずは自分に何ができるのか、何ができないのか、会の中でどこから進めていけばよいのか、ひとり問答を繰り返した。
 会をなんとかしなくては。まずは、仲間探しから始めた。私も含め、手伝いをしてもらう仲間はみな仕事を持ちながら、空いた時間の中で会に協力をしてもらっている。その人たちに具体的にどう協力をしてもらえるようにすればよいのかが大きな課題になった。「ひとりNGO」にはなりたくない、したくない。「できる人ができる事を、できる時間で少しずつ分け合いながら仲間と運営していく」、それが理想のNGOではないかと、私は信じている。
 試行錯誤を続けながら、二〇〇二年に「クルンテプの会」が一〇周年を迎えた。その時に自分自身の区切りにもしたいと、会の名称を「くるんて〜ぷの会」に改名した。その改名からも、もうすぐ一〇年が経とうとしている。
 振り返れば長くもあり短くもあり、活動がこれでよかったのかと考える時がある。「くるんて〜ぷの会」の運営は山あり谷あり、そして活動を行いながら家庭でもさまざまな出来事もあった。二〇一二年一月には二〇周年を迎えようとしている。今後どう活動していくのかを考える時期が来たように思う。世代交代も大きな課題になる。NGOは活動がなくなるのが理想だという考えもあるなかで、支援はもう必要ないのか、まだ必要とされているのかなど、会の今後の活動を冷静に考える時期に差し掛かっている。
 近年のタイは大きく動いている。〇六年の軍事クーデターや、〇八年に空港が占拠された出来事は記憶に新しい。また今年の三月にはタクシン派(赤シャツ)と現首相のアピシット派(黄色いシャツ)の対立によりタイでは大惨事が起こった。この争いにより、現地パートナー団体である財団のプラティープ理事長にも逮捕状が出された。
 混迷を続けているタイ国。しかし、政治や情勢にかかわらず、いまだ貧困から抜け出せず、教育を受けたいと願う子どもたちが奨学金を待っていてくれるかぎり、会の活動が必要とされているのかもしれない。「くるんて〜ぷの会」は福岡の小さな任意団体だが、「学校に通えない子どもたちへの教育里親活動」の理念を忘れずに、これからもタイの子どもたちのために活動を続けていきたいと思う。ひとりでも多くのタイの子どもたちの笑顔に会うために、「くるんて〜ぷの会」は歩み続ける。

(はらだ・きみこ/くるんて〜ぷの会 代表)

くるんて〜ぷの会 http://krungtep.npgo.jp/


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