コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2011/2/18up)




◆ 出会いと感謝

〈『部落解放』2011年2月号掲載〉

寺澤亮一

 奈良の研究所で「長野の中山先生がお亡くなりになったことを知っていますか」と聞かされたのは昨年七月も半ばに入ったころでした。全同教から知らせがあったのかとたずねると、新聞で知ったということでした。一度おたずねをしておきたかった。あぁと後悔が走りました。
 いつも頂戴する年賀状には、健康を問うてくださり、上京の際は一度立ち寄りなさいと書いてくださっていました。いつかきっとお逢いしたいと思いながら、とうとう果たされぬ思いになってしまいました。
 そして今度は、部落解放同盟奈良県連の方から中山英一先生を「しのぶ会」が開催されることを聞かされました。全同教事務局から知らせてもらえなかったのは少しさびしい気がしましたが、なんという幸運、奈良県連から知らされたのです。県連から参加されるのならご一緒させてくださいとお願いすると、県連は都合がつかないので代わりに参加してはと言っていただいたのです。偶然の積み重ねが「しのぶ会」へ誘ってくれました。ありがたかったといまも感謝しています。
 一〇月一一日の「しのぶ会」では、主催者の方からひとこと語ってくださいというご好意も頂戴しました。にこやかにほほ笑みながら見つめてくださるご遺影を拝見しながら、いっぱいある思い出の中から、このことだけは話させていただかなければと、とっさに閃いたことをお話しさせていただきました。
 一九九三年、「地対協」委員に加えてもらったことを、中山先生はとても喜んでくださいました。あたえられた任の重さと不安を申し上げると、その時は大丈夫だよと笑って肩を叩いてくださいました。
 そしてその年、一度長野に来ないかねと夏季信州人権大学へ誘ってくださったのです。承知しましたと言うと、それはよかった、同和教育がすばらしいことを伝えてくれればいいんだ。詳しいことはまた知らすからねと笑っておられました。気軽くお受けしたのですが、そこには中山先生のお心がいっぱい詰まっていたのです。後日、信州人権大学には、「地対協」会長になられた宮崎繁樹先生も来てくださることになったからねと教えられました。
 いまは宮崎繁樹先生のすてきなお人柄と、人権課題にむけられる情熱に感動しておりますが、当時はまさに初対面、遠いお方でした。
 こうして親しくお出会いさせていただく場をつくってくださったのでした。信州人権大学では、二人に来ていただいてほんとによかったといつもの笑顔です。
 振り返りながら、これを先生のやさしいお計らいだけだとは思っていません。そこにあった部落差別解消への深く熱い中山先生の心だと受け止めさせていただいています。
 信州人権大学の翌日、中山先生は宮崎先生を差別戒名墓石の墓地にご案内されました。そして、あのね宮崎先生が墓地で涙を流してくださったんだよ。すばらしい先生だねと、本当にうれしそうに話されました。
 「地対協」意見具申からまもなく一五年が経ちます。忘れられない思い出です。「しのぶ会」にご縁をいただいて、こんな話をさせてもらうことができました。
 中山先生にこのことでぜひともお伝えしておきたかったことがあります。「地対協」意見具申が提出され任務が終了した、いわば解散の場で、「地対協」会長の宮崎繁樹先生は中山先生の案内で差別戒名墓石に出合われたこと、その時のこみあげた胸のうちを、初めて委員のみなさんに披露されました。宮崎先生は任期中だれにも語られずに、ずっとこの思い出を持ち続けていてくださったのです。このことをご存命中の中山先生に聞いていただきたかったのでした。
 「しのぶ会」のにこやかなご遺影が、そうかねそうかねと、きっと聞いてくださったと、ひとり合点しながら、かけがえのない師にお別れをしました。
 最後にひとこと、全同教の常任委員会で、中山先生はなくてはならない人でした。
 中山英一先生のあの修辞に厳しいご姿勢は、いきざまかけて差別とたたかい、心の底から人間を愛してこられたものであったと、しみじみと思い出されます。運動にも教育にもかけがえのない方であったとなつかしみます。菩薩のようなお方でした。いまごろは西光万吉さんと語り合っておられるのかと。合掌

(てらさわ・りょういち/奈良 人権・部落解放研究所)


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