コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2011/5/19up)




◆ 暴言連発装置・石原慎太郎

〈『部落解放』2011年5月号掲載〉

平野広朗

 石原慎太郎東京都知事が、またもや暴言を吐いたという。東京都青少年健全育成条例改悪に関わっての、同性愛者差別発言である。
 「テレビなんかにも同性愛者が平気で出るでしょ。日本は、野放図になりすぎている」「どこか、やっぱり足りない感じがする。遺伝とかのせいでしょう。マイノリティーで気の毒ですよ」――開いた口がふさがらないとは、このことだ。「懲りないオッサンだ」と言えるレベルなら、学習能力の問題だと言えないこともないが、彼の場合は、そもそも自分の発言に問題があるなんて微塵も思っていないのだから、つける薬がない。毎度のことながら、いくら抗議しようが批判しようが、糠に釘。批判されたら、ムキになって差別の倍返しをしてくるのは目に見えている。まるで、ガキである。「じゃ、誰かさんみたいに、陰に隠れてこっそりやってたらいいわけね」とでも言い返しておくしかあるまい。
 差別発言を受けて、各地のアクティヴィストたちは抗議声明を送りつけたり抗議集会を開いたりしてきたが、ぼく自身はいまだに何の行動も起こしていない。正直言って、何を今さらといった諦めに近い気持ちがないと言えば嘘になる。だが、「何を今さら」という感慨の裏には、別の意味もある。みんなどう思ってるんだろうと、OGC(大阪ゲイ・コミュニティ)の例会で話題に乗せてみると、やはり、ぼくと同じような意見が返ってきた。まず一つ目は、同性愛差別に限定しての抗議なら賛同できないという立場である。
 石原慎太郎と言えば、暴言・放言のおもちゃ箱である。「三国人」発言しかり、(重い障害をもった人たちについての)「ああいう人ってのは人格あるのかね」しかり、(水俣病患者が手渡した抗議文について)「これを書いたのはIQが低い人たちでしょう」しかり、「女性が生殖能力を失っても生きているってのは無駄で罪」しかり。数え上げたらきりがない。しかも、大臣だったら、どれ一つを取っても首が飛ぶような重大発言ばかりだ。彼が踏みつける相手は多岐に渡っているが、その差別に懸ける情熱にはすさまじいものがある。何が彼をそこまでさせるのか。臆病の裏返しが傲岸不遜に出るのかとも思うが、彼個人のことはどうでもよい。重要なのは、自分が差別されたときだけ立ち上がるのでなく、さまざまな分野の人たちと認識を共有しながら共に闘う姿勢を持つことだ。自分の畑だけを見てモグラ叩きを続けていても、しょうがない。ほかの差別問題にも敏感であろうとしているか、自分たちも他者を踏みつけていることがないか。それは、不断に検証し続けなければならないことである。だが、ぼくたちゲイにそういう心構えが出来ているかというと、はなはだ心許ないものがある。
 もう一つ議論が集中したのは、これほどの暴言を繰り返す男を、東京都民は、なぜいつまでも知事にしておくのだろうということだった。石原個人の問題もさることながら、もっと大きな問題はむしろ、彼を都知事に選び続けている都民の意識のありようにある。少々羽目を外すことはあっても余人には代え難い業績を彼が残しているというならまだしも、オリンピック招致運動にしても、築地市場移転問題にしても、新銀行東京の破綻にしても、失政の連続だ。これだけ都税を無駄遣いされて、それでも黙っている都民の心理がぼくには理解できない。一極集中で、人も企業も金も集まってくる東京にとって、これくらいの無駄遣いはなんら苦にならないということなのか。都外の人間にはうかがい知れない「何か」が彼にはあるのか。
 かろうじて考えられるのは、一般庶民が人前で口に出して言えないような「本音」を、誰憚ることなく堂々と代弁してくれるところに彼の「存在意義」があるのではないかということだ。自分より「下」の者を見つけ出して蔑むことで、日ごろの鬱憤を晴らすという「差別の快感」を、石原都知事が満たしてくれるとあれば、下手なドタバタ芸人を見るよりずっと面白い。そういう意味で、石原慎太郎は都民の差別感情を映し出す鏡なのかもしれないと思う。しかも、いくら批判されても頑として引っ込めないところが「頑固親父」を髣髴させる。批判精神を失ったマスコミは彼の子どもじみた意固地を面白おかしく書き立てるばかりだから、勘違い親父はますます増長し、都民はガキ親父を囃し立てて溜飲を下げる。彼を野放しにしてきたマスコミは、差別の共犯者である。
 それにしても・・・。新聞記者を「ブンヤ」呼ばわりしてふんぞり返った石原先生には、「しがない物書きでございます」とへりくだってみせる美徳が足りないようだ。歴史に名を残す同性愛の天才、英雄の苦悩を想いやるには格が違いすぎて及ばないとしても、セクシュアル・マイノリティをはじめとする市井に生きる名もない人びとの人生に細やかな眼を注ぐのは、物書きなら誰しも疎かにしてはならないことである。ふんぞり返ってばかりで傲慢な言辞しか吐けないなんて、なんとも気の毒な人だ。

(ひらの・ひろあき/定時制高校教師、大阪ゲイ・コミュニティ)

Hiro-peeの寝床 http://www.hiro-pee.net/


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