コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2011/7/8up)




◆ 被災地からの誓い

〈『部落解放』2011年7月号掲載〉

阿部恭子

 「あの夜、星がすごくきれいだったよね……」
 私が住んでいる地元仙台。あの大震災の話をするとき、よく耳にする言葉である。
 街全体が電気を失った夜。星の光だけが暗い大地を照らしてくれていた。
 私はそのとき家の中で、蝋燭の光だけを頼りに毛布に包まりながら、携帯ラジオの情報にひたすら耳を傾けていた。仲間たちは無事だろうか……。この先、どうなってしまうのだろう……。不安に押しつぶされそうになりながらも、一日の疲れからいつのまにか眠りについていた。
 三月一一日――。私は、朝四時半に起き、六時から始まる広瀬倫理法人会モーニングセミナーで講演を行う準備をしていた。講演では、三月五日にワールドオープンハートが主催したシンポジウム「犯罪に巻き込まれた人々のケア〜犯罪加害者家族支援を考える」が大成功に終わり、スタッフ全員が「犯罪加害者家族支援」の手応えを感じはじめているということ、そして活動が始まって三年目に入るということでようやく方向性が見えてきたといった話をしてきた。今年は間違いなく、我々の活動にとって飛躍の年となるはずだった。講演後、会食を終えてから事務所に戻り、自宅に戻って事務作業を行なっていたところ激しい地震に襲われた。
 宮城県ではかねてから宮城県沖を震源地とする大地震が来るといわれており、ある程度の覚悟はみな持っていたはずである。数日前も大きな地震を経験していたことから、三月一一日もすぐに揺れはおさまるだろうと思っていた。しかし、上下の揺れは勢いを増すばかりで、机や棚にあるものがどんどん落下し、あっという間に足の踏み場もない状態となった。おさまったかと思えば再び動き出す地面に、生まれて初めて「死」が迫ってくる恐怖を感じた。このまま地面が割れて、自分が下に引きずられていくのではないかと思うような瞬間だった。とても長い時間だったように思う。
 幸い家族は無事で、仙台市内に住むワールドオープンハートのメンバーからも震災直後に無事を知らせるメールが入っていた。その後、水や食料を手にするために何時間も店頭に並ばなければならない日が続いた。沿岸部に住むいまだ連絡が取れない友人のことが気にかかり、テレビや新聞から流れてくる死者の情報を目にすることが怖くなっていた。幸い家族に怪我はなかったものの、家が浸水して車が流されたり、実家が全壊してしまったメンバーもいた。二日、三日と経過するごとに被害の状況が明らかになり、次々と乗り越えなくてはならない課題が突きつけられるのだ。  三月一三日の夜、ようやく自宅に電気が通り、携帯電話の充電ができたところで電話が鳴った。
 「加害者家族の会ですよね? 息子が逮捕されたんです!」
 一気に現実に引き戻されるような気がした。それまで悪夢の中にいたのだろうか。地震の影響を気遣う一言もなく、現状についてまくし立てる相談者に一瞬疲れを感じながらも、話を聞けば聞くほど、なんとかしたい、なんとかしなければという思いがこみ上げてきた。このときすでに多くのメディアが被災地への義援金の受付やボランティア情報、世界中からの応援メッセージを伝えていた。一方、加害者家族はどうだろう? 彼らは孤独だった。誰も助けてくれず、誰も気にかけてくれず、悲しみをわかちあう相手もいない――。
 自分が生き残った意味について、気づかされたような気がした。仙台で灯った加害者家族支援の火を消さないためにも、立ち上がり、なんとか活動を続けていかなくてはと。せっかく与えられた命(チャンス)だから、これからもずっと自分の使命をまっとうしようと誓うことができた。
 この大震災で、お年寄りなど弱者を助けようとして自らの避難が間に合わず、命を落とした人々がたくさんいる。命がけで弱者を守ろうとした人々の思いをしっかりと胸に刻み、マイノリティの支援に活かしていきたい。

(あべ・きょうこ/World Open Heart 代表)

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