コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2011/9/30up)




◆ 郷土愛

〈『部落解放』2011年9月号掲載〉

阿部恭子

 今日は東北六魂祭(七月一六〜一七日)。東北六県を代表する祭りの数々がここ仙台に集結するという。子ども連れの家族や若者、お年寄りまでさまざまな人で街は溢れ、賑わいを見せていた。道行く人はみな幸せそうで、照りつける太陽に負けないぐらい、人々の熱気で街は活気を取り戻している。
 三・一一の震災以降、仙台を離れることが怖くなった。自分が留守にしている間に地震が来て、家族と離ればなれになったら……。仙台が壊滅的な被害を受けたら、私はどこに帰ればよいのか……。
 私の故郷――仙台。好きか嫌いか尋ねられても、「なんともいえない。故郷なのだから」いつもそう答えていた。そう思っていたのだ。しかし、いまならこう答えるだろう。「仙台が大好きだ。どこよりも大好きだ」と。
 「津波てんでんこ」という言葉があるそうだ。三陸海岸地域で、津波が来たときは、家族に構わずてんでんばらばらに逃げろという言い伝えだそうだ。
 三・一一の津波で、寝たきりのお年寄りや小さい子どもを救おうとして、避難が間に合わず亡くなった人々の話をよく耳にする。自分一人で逃げていれば助かったかもしれないにもかかわらず、家族や障がい者を置いては逃げられなかった人々が大勢いた。こうした事態は、今後の避難における大きな課題であることは間違いない。しかし、最後まで弱者を守ろうとした結果、命を落としてしまった人々を、私は心から誇りに思う。
 震災直後、食料などが不足した時期も、暴動はおろか、列を乱す人もなく、皆、肩を寄せ合い助け合って生活していた。雪の降る中、体を震わせながら食料を求めて並んでいるときも、ホッカイロやお菓子を分けてくれる人がいてとてもうれしかった。その優しさと心遣いに、お腹より胸がいっぱいになった。先の見えない不安の中で、情報交換をしたり、お互い励ましあって生きてきた。他人のことも放っておけない……そんな「お人好し」の東北の人々の精神がとても愛おしく感じた。
 この震災で、多くの震災孤児が生まれた。今年二月まで朝日新聞石巻支局長を務めていたジャーナリストの高成田亨氏が、震災孤児の就学を経済的に支援しようと四月二〇日に「東日本大震災こども未来基金」を設立した。震災直後から現地に入り、国の復興構想委員のメンバーとしても東北の復興に尽力されている高成田さんを応援したいと、微力ながら私も基金の事務をお手伝いすることになった。
 高成田さんとの出会いは、石巻の「田んぼ」だった。ニートやひきこもりなど、仕事を見つけられずにいる若者が、農業を通して働くことや人との関わりを学ぶ石巻の自立支援団体、「NPO法人フェアトレード東北」が主催する「田植えイベント」の時だった。布施龍一代表は、農業はやってみないとわからないから、記者でも誰でも一度は田んぼに入ってもらうという。見学に来たつもりの私も泥だらけになり、高成田さんも、ほかの人も皆、泥だらけだった。農業は想像していた以上に楽しい体験で、自分の植えた苗がちゃんと育っているのか気にかかり、秋の稲刈りにも参加した。共同作業を通じて生まれる連帯感が確かにあったし、フェアトレード東北が、他の施設で手におえないといわれた人々を数多く就職させている理由を体感した。
 フェアトレード東北には、高成田さんをはじめ、さまざまなバックグラウンドを持つ人々がいた。年齢も性別も国籍もさまざまな人々が、農業を通して絆を深めていた。フェアトレード東北も、今回の震災で甚大な被害を受けた。震災後、ようやく連絡が取れた瞬間は涙が止まらなかった。スタッフ自ら被災しているにもかかわらず、石巻付近のさらに被害の大きい地域の支援活動に、毎日休む間もなく奮闘している。
 自ら行動を起こすことで何かが変えられる――。そう信じて困難に立ち向かっていく仲間と出会えたことに心から感謝している。東北の地に生まれたことを、心から誇りに思う。

(あべ・きょうこ/World Open Heart 代表)

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