コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2012/3/16up)




◆ わいわいガヤガヤ

〈『部落解放』2012年3月号掲載〉

坂井ひろ子

 わが家はかつて七人暮らしだった。私たち夫婦と子ども二人、私の両親と義母である。それまでは四か所に分かれていたのだが、みんなで一緒に暮らしたいとやや大きめの家を建て、全員集合となった。屈託のない家族でよくお客がきていた。
 父の所には焼き物好きの仲間が集まり、おのおのが何やら家にあった古いものを持ち寄っては、九谷だ古伊万里だと言い合っていたし、碁を打ちに来る人たちもいた。
 母や義母の友人たちは俳句仲間が中心で、お茶をわかして持ち寄った漬物やおかずをお茶うけに、苦労話に花を咲かせていた。戦争など苦しい時代を共有した人たちでやりくり上手、煮物料理など教えてもらった。みんな働き者、孫の世話や冠婚葬祭を取り仕切り、足腰が痛んで「昔は肥えたご担いで、山坂上り下りよね」といいながらよくうちに集まった。
 そうやってみんな少しずつ年齢を重ねた。
 二人の子どもたちがまず進学でうちを出た。卒業してそのまま就職、ヤレヤレと残った五人は車で小旅行を楽しんだ。そして二十余年がまたたく間に過ぎていった。
 私の両親が相次いで逝き、四年後に義母も九十三歳で旅立った。
 私は無人の各部屋を訪れては、呆然と突っ立って窓からの景色を眺め、ベッドに座っては在りし日の人の、生き生きとした言葉やしぐさを自分の胸奥に埋めこむ。
 神様が与えてくれたあのにぎやかで優しい歳月。しかし抗いようもなく時は移ろい、時代は変わっていくのだ。
 当番で集金に廻ると、隣組の半分がションボリの老齢所帯、マンションで孤独死があり、十日後に見つかったと噂している。
 私の中で何かが動き始めた。それは日を追って強く確かな形になっていく。
 この家を使おう。間仕切りを取れば二十畳のフローリング、流しにコンロにトイレだ。週に一回でも、人の声に溢れたあのにぎやかで楽しい日が戻ってくればうれしい。
 一か月後、回覧板の一番下に一枚の紙を挟み込む。
 お誘い――「楽しい遊び場作りました。どうぞおいでください。みんなでおしゃべりしたり、おいしいもの作って食べたり、散歩にいったり、何か作ったりして遊びませんか。ミシン、碁盤、トランプ、かるた、花札もありますよ」
 かくて遊び処「わいわいガヤガヤ」誕生。たまにくる若い人は「わいガヤ」。
 三年めになる現在は、金曜土曜が遊ぶ日。楽しみにやってくるおばあちゃんが七人とおじいちゃん二人が常連。平均年齢七十七歳。役所の福祉課から見学に来て、
 「わあ、これって介護前事業ですよね」
 「とんでもない。隣近所仲良くしてるだけの話よ。あなたも遊ばない」といったら、本当にブレスレットを作って、またきてもいいですか? だって。
 それ以来、バザーをしませんか、との案内がくるようになった。みんな大張り切りで、いまは春のバザーで売れそうな漬物やアクセサリーを考えている。

(さかい・ひろこ/児童文学者)


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