コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2012/4/16up)




◆ 新潟への震災避難者

〈『部落解放』2012年4月号掲載〉

小林多美子

 東日本大震災から、一年が過ぎた。岩手、宮城、福島三県を主にした被災地のニュースに比べて全国的に報じられることは少ないが、新潟県では東京電力福島第一原発事故の影響などで、現在も約七〇〇〇人の人々が避難生活を送っている。
 震災発生直後は、原発から三〇キロ圏内の警戒区域・緊急時避難準備区域の住民がほとんどだったが、福島県内の仮設住宅などに移る人が増え、昨年三月末の九二二二人を最大に減少傾向となっていた。それが、放射能汚染の拡大を懸念する福島市や郡山市などからの自主避難者が増えたことで九月に増加に転じ、一一月にふたたび七〇〇〇人を超えた。
 ちなみに、福島県などからの広域避難者をもっとも受け入れているのは山形県で、約一万三〇〇〇人が避難している。自主避難者には、福島県内で働く父親を残し、母子のみで避難しているケースが多い。この二県に避難者が多いのは、高速道路や国道で福島市や郡山市と一本でつながっており、週末などに父親が子どもたちに会いに来やすい、という背景があるようだ。
 「子どもを守りたい」、避難する母親たちの思いはそのひとつだ。だが、その思いに対して向けられるものは温かい視線ばかりではない。放射能汚染への考え方は人によってさまざまで、夫や両親の反対を押し切って飛び出してきた母親もいる。福島で暮らす人たちにとって、避難していく人に全面的に賛同したくないという思いも、人の気持ちとしてはありえることだろう。だが、「新潟の人たちが温かく受け入れてくれて、やっと安心して暮らせる」、「子どもたちを外で好きなだけ遊ばせることができてうれしい」。そう話す母親たちの笑顔を見ていると、お母さんが安心して子育てができる環境を作ることの大切さを、痛感させられる。原発事故が起きて「もう」一年ではない、「まだ」一年だ。子どものために親が避難を選択する自由は、許されてしかるべきだと思う。
 そこで感じるのが、自主避難も含めて避難者に、民間アパートなどを県が借り上げて無償で提供する「民間賃貸住宅借り上げ制度」が果たしている役割の大きさだ。新潟県では約五〇〇〇人が利用している。もしこの制度がなければ、避難したくてもできない人たちはもっと多かっただろう。
 被災地では、仮設住宅に比べ支援の手が届きにくいなどの課題があるが、広域避難者の受け入れという面では、機能していると感じている。
 だが現在、受け入れ自治体では新規受付を終了する動きが広がっている。新潟県は当面継続する予定だが、制度自体が二年という期限付きであることもあり、避難者たちは制度の今後に不安を感じている。
 安心して暮らせる場所を選ぶ権利を守るには、住まいの保障が不可欠だ。政府や自治体は、子どもの健康を案じる親の思いから眼を逸らさないでほしい。

(こばやし・たみこ/毎日新聞新潟支局記者)


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