コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2013/1/23up)




◆ 「白河以北一山百文」の果てに

〈『部落解放』2013年1月号掲載〉

土方正志

 日本近代の始まりに端を発した東北への蔑視がある。明治維新に敗北した末に、東北は「白河以北一山百文」と蔑まれた。白河関(現在の福島県白河市)より北は不動産価値もない、買い叩くには丁度いいといったところか。宮城県仙台市に本社を構える「河北新報」紙は、今も毎月二回一面で、この「白河以北一山百文」に抗するために「東北振興」と「不覊独立」を社是として明治三十年に創刊されたと高らかに宣言している。だが、新政府に抵抗した会津が、あの「フクイチ」が、今、共にかつて白河関が置かれていた福島県にあることを思えば、東北人は胸塞がる。
 十年ほど前、寄席文化に詳しい東北生まれの詩人と、こんな会話を交わした。落語などの間抜けな田舎者の語りが、どうもいい加減な東北弁に聴こえる。あるいは映画の吹き替え。洋画なのに田舎者は東北弁を喋る……「あれ、気になるよね。だけど、ま、いいんじゃない。悪人じゃないんだよ。どこか人がよくて呑気な〈間抜け〉なんだ。その存在が愛されているんだと思えば、腹も立たないさ」。
 これも十年ほど前だが、私たちが編集していた雑誌に、東北の学生から投稿が寄せられた。彼はネット上の〈東北蔑視〉の書き込みに愕然としていた。曰く「東北人は田舎者」「東北人は陰湿」「東北人は頭が悪い」「東北人は蛮族」。東北に生まれ育った彼は、自分たちがそう見られていると初めて知り、東北への差別意識の強さへのおどろきを記していた。
 集団就職に出稼ぎに減反があった。進学や就職で東北を出た経験を持つ五十代以上の人たちは東北弁を笑いものにされた苦々しい思い出を今も語る。バブル期には国内NIES論もあった。海外に工場を移さずとも、国内で地価も人件費も安価な東北に移転すればいいではないかというわけである。
 近代に乗り遅れた愚かな負け犬たちが暮らす北の果ての僻地――そんなマイナスイメージが生んだ〈東北蔑視〉といっていい。もちろん、逆のイメージもある。『遠野物語』的な「日本のふるさと」東北である。宮澤賢治、石川啄木、棟方志功、寺山修司などなど、東北の芸術家たちの清新なイメージもあるだろう。ドラマなら『おしん』か。蔑視と憧憬が複雑に屈折して投影されたこの〈東北像〉に、東北人のアイデンティティは幾重にも引き裂かれてきた。
 だが、この「日本のふるさと」イメージが大震災下の東北を助けてくれたのではないかと、今、思う。「あのどこかなつかしい土地が危機に瀕している」と感じ取ったみなさんが手を差し伸べてくれたのではないだろうか。それでは〈東北蔑視〉はどうか。この感覚が、放射性物質による汚染への視線、被災地全域に拡がった風評被害、あるいは被災者の肺腑を抉った石原「天罰」発言や松本「知恵を出せ」発言に、各々の是非を今は問わずとも、どこかに横たわってはいないか。そうではないことを祈りたい。「白河以北一山百文」の果てに、近代〈東北蔑視〉の果てに、あの福島第一原発の今があるのだとしたら、あまりに切ない。

(ひじかた・まさし/有限会社荒蝦夷代表)

有限会社荒蝦夷
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