コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2013/8/7up)




◆ 自助・共助・公助

〈『部落解放』2013年8月号掲載〉

池田直樹

 このような言葉を誰が最初に使い始めたかは、わからないが、私は以前、日経新聞で学者が紹介しているのを読んだ記憶がある。そして厚生労働省も「地域包括ケアシステム」を推進するなかで、このような言葉を使っている。三つの言葉を並べることにより何を言おうとしているのかは、使う人によりニュアンスが異なるものの、それぞれに気付かされることがある。
 日本の福祉は「公助」の要請に応え、国の負担と責任において国民のために実施されるべきものと考えられ、「福祉国家」としていろいろな施策が実施されてきたことは事実であるが、他方で「観客民主主義」「お任せ民主主義」という表現も使われ、市民は「素人で何もわかりません」というスタンスから一歩も踏み出さず、「自助」「自己責任」「自立」の考えが薄いのも問題だと指摘されている。NPO(民間の非営利活動法人)が制度化されて、多くの市民が公益活動に参加するようになってきたことは、「共助」をになう市民に活動の場が提供されたものと言える。国は「福祉国家」という方向を否定しないものの、明らかに減速させ、経済活性化へのテコ入れにかじを切った。国が元気になれば、福祉分野も潤うという思惑から「公助」におんぶにだっこではなく、「共助」「自助」に負担を分散させようとしている気がする。
 このような思惑から使われ始めた言葉を使うのは、何か歯がゆい思いを感じるものの、「自分らしく生きる」「コミュニティの再生」という方向は伸びていってほしいと思う。自分の生き方を国に押し付けられることを拒否し、「自己決定」が尊重される社会にしていくべきであり、そのような個人を支えるのは公務員ではなく市民が運営するNPOであるべきではないか。以前アメリカに視察に行ったときに、市民と行政のあいだに多様で重層的にNPOが存在し、市民はまずNPOの相談窓口に駆け込み、NPOがニーズを仕分けし必要書類を準備して適切な行政窓口に出向く。行政が対応窓口を用意していなければ新たに設置するよう働きかける。このようななかでNPOの政策立案能力も高められ、議員や行政担当者などの政策決定者に提言していく。アメリカでは高齢者や障がいのある人びともNPOを活用することで、自分らしく生きることを受け入れる社会を育てようとしている。
 高齢者や障がいのある人びとのように経済の本流を支えていない人びとが、相対的に軽くみられる社会を何とか軌道修正させるべきである。社会から軽くみられる結果として「自分らしく生きる」ことをあきらめ、「社会に気兼ねしながら生きる」ことを強いられることはあってはならない。「まず自分ありき」であり、自分らしく生きるために社会や行政に多様なニーズを訴えていく。そしてその訴えを受け止めるのは、その人の属するコミュニティであり、地域のNPOであり、地域の声を行政に認めさせていく、このような権利擁護サイクルの活性化を期待したい。

(いけだ・なおき/大阪アドボカシー法律事務所・弁護士員)


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