コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2014/3/20up)




◆ 成るか、釜ヶ崎型ボトムアップのまちづくり ◆

〈『部落解放』2014年3月号掲載〉

ありむら潜

 風前の灯とされる橋下徹大阪市長の市政改革。その中で、最も地味な西成特区構想だけは意外な実績を残すかもしれないという実感が私にはある。というより、橋下嫌いも好きも超えて、積年の課題であるこの地域の改善はこの際、大きく前進させるべきだろう。そして、頑張れば世界の貧困地域の改善手法史の中に、住民参加型まちづくりの「釜ヶ崎型」というのが生まれるかもしれない。そういうポジティブな話をしよう。
@特区構想への提案段階でのボトムアップ
 まちづくり不毛の街とされてきた釜ヶ崎(西成区)だが、一九九九年以降、まちづくり推進のしかけが下から形成されてきている。公的事業の受け皿としてのNPO釜ヶ崎支援機構の設立。釜ヶ崎のまち再生フォーラムによる「定例まちづくりひろば」は営々とまちづくり意識の醸成とビジョンづくり、社会的起業を刺激し続けている。二〇〇八年には、連合町会を基軸にした「仮称萩之茶屋まちづくり拡大会議」が成立。連合町会・簡易宿泊所組合・労働者支援諸団体・福祉施設などなどが積年の相互不信や分断を超えて、一つのテーブルについている。名称からあえて「仮称」を外さない知恵も働かせながら。団体参画型でものごとを決めていく拡大会議と、個々人レベルで自由に集い議論し着想を得る再生フォーラムとの相互補完関係は絶妙でもある。こうして特区構想には八分野三〇〇項目の提案がされ、有識者座談会報告書の基盤となった。長年の努力が実を結んだと言える。
A実施手法でのボトムアップ
 全体構想を「エリア・マネージメント協議会」で進めていく手法が初年度(平成二五年度)から始まっている。実施すべき項目を当面五つの専門部会に分け、そこに関係行政部局複数・有識者委員と並んで、地域の町会・福祉施設・支援団体などからのメンバーが早い段階から入っている。五つとは、@区内の未利用地活用、A新今宮駅周辺の集客や観光推進、B生活環境・福祉、C子育て・子育ち、Dあいりん総合センター建て替えと周辺整備。これらから成り、各具体案や実施プロセスのマネージメントが議論されている。Dでは、国・府が地域住民参画を渋っているとわかったため、知恵を出し、上記拡大会議で同一テーマを議論して、逆にそこに国・府・市にオブザーバーで来てもらう形態を先行させたり。各部会は節々で区民シンポジウムというかたちで公開され、会場の一般区民との質疑もされる。Bでは、あいりん地域トータルケア・ネットワーク(区独自施策)に生活困窮者自立促進支援制度およびそのモデルケース事業(国)を合体させたワンストップ型地域包括支援システムづくりとか、単身高齢生活保護受給者の社会的つながりづくり支援事業(ひと花プロジェクト)などもからませている。上述の拡大会議参画メンバーなどでまちづくり合同会社(LLC)も設立したので、仕事づくりの役割も果たせるだろう。
 総じて、これまでは役所、それも個別部局がプランを立てて予算化し、よくてその後に住民や利用者への説明がアリバイ的になされるという型だった。それが、今起きていることは、住民との議論や知恵借り作業がエリア・マネージメント協議会で先にあってから計画化や予算化がされ、その後のマネージメントもここで議論されていくというしくみである。その動きは、定例まちづくりひろばでも区長や特別顧問などから直接説明され、参加すれば誰でも質疑できる。
 これは、釜ヶ崎の歴史上画期的なことである。もちろん、「街の一人ひとりの日雇いのおっちゃんたち」レベルまでどうこの流れに参加してもらうかという、残された課題はある。そこは重要な点だ。それも含めて、まちづくりとは「民主主義の学校」なのだと実感する。われわれは低学年かもしれない。これが起きている釜ヶ崎で、人びとも役所も何を学ぶのか、楽しみではある。みなさんにも応援をお願いしたい。いや、共に学んでほしい。

(ありむら・せん/釜ヶ崎のまち再生フォーラム事務局長・漫画家)


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