コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2014/5/19up)




◆ 平時の沖縄を襲い続ける“音の爆弾” ◆

〈『部落解放』2014年5月号掲載〉

松元 剛

 沖縄戦の激戦地だった宜野湾市嘉数の高台の一角に、ひときわ目立つ白亜の豪邸が建っている。在沖米総領事の公邸だ。広い庭から米軍普天間飛行場を一望できる。
 普天間飛行場に着陸する垂直離着陸輸送機オスプレイやC130空中給油機などのパイロットは、滑走路から約一・三キロ離れた総領事公邸を滑走路への進入の目印にしている。私は、公邸の庭で開かれていたパーティーの最中、C130空中給油機が真上を飛び、日本政府の沖縄全権大使の妻が驚いてしゃがみ込んだ場面に出くわしたことがある。立ち上がった彼女はあけすけにこう言った。「こんな怖い音は初めて。こんなとこに住んでるなんて、大変ね」。傍らの総領事夫人が嫌な顔をして聞いていた。歴代総領事の何人かはうるささに音を上げ、国務省や駐日米大使館に移転を懇願したが、沖縄の住民から猛烈な批判が出るだろうと説得され、泣く泣く、断念したという話もある。
 空中給油機が総領事公邸の真上を通った際の騒音は、電車のガード下に相当する九〇デシベルぐらいの音で、確かにうるさい。この音が非日常の人にとっては「大変な音」に違いないはずだが、もっと基地に近い地域で響く爆音はさらにすさまじい。
 米兵が起こす事件や航空機の墜落などの事故に比べ、住民生活をかき乱す爆音被害の実態を伝えることはなかなか難しいが、少し分かりやすい例を挙げると理解が進む。
 どんな人でも間近に来た自動車から警笛を鳴らされると、不意を突かれびくっとするだろう。安全を促す警笛も、近すぎると逆に心身の危険を感じる。警笛と同じ水準の爆音が降り注いでも、住民に遮る術はないのだ。沖縄の不条理の一つである。
 普天間飛行場の滑走路の反対側の滑走路の端から四〇〇メートルしか離れていない宜野湾市立普天間第二小学校の教室内では、しばしば一〇五デシベルを超える音が計測される。二〇一二年四月一二日、北朝鮮が「人工衛星」と称する物体を放った日には、校舎屋上でFA18の飛来時に一一九デシベルが記録された。一〇〇〜一一〇デシベルは、車の一〜二メートル前で目いっぱい鳴らされる警笛に匹敵する音だ。屋上の一一九デシベルは航空機のジェットエンジン音に間近でさらされる水準の音だ。いずれも一〇分以上聞き続けると、心と体に変調を来す。“音の爆弾”とも形容されるレベルの音が、戦時下でもない平時の学びやを襲っているのである。
 約一〇キロ離れた嘉手納基地を離着陸するF15や外来のFA18などの戦闘機の爆音のひどさはさらに増し、一日に八〇回〜百数十回も爆音が降り注ぎ、住民の生活を寸断している。飛行差し止めを求める嘉手納基地爆音訴訟の第一次訴訟(一九八二年提訴)で、国側は原告住民のことを「特殊な感覚の持ち主」と陳述した。この「異常者」発言に県民が猛反発し、裁判長は撤回を勧告したが、国は応じなかった。
 名護市辺野古の豊かな海に「普天間」に代わる新基地を造る計画に断固反対する市長が再選を果たしても、安倍政権は民意を無視し、工事を阻もうとする市民を力ずくで取り締まる姿勢さえ示す。尊厳を懸けて基地にあらがう沖縄県民を「異常者」とみなす差別的発想が息づいているとしか思えない。

(まつもと・つよし/琉球新報編集局次長兼報道本部長)


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