コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2014/8/14up)




◆ ヘイトスピーチ規制法 ◆

〈『部落解放』2014年8月号掲載〉

金子マーティン

 二〇一三年あたりから東京・新大久保や大阪・鶴橋などの在日コリアン集住地区で「在特会」のヘイトスピーチ・デモが多発し、「Japanese Only」の横断幕や張り紙なども再び目にするようになった。日本のその醜い超国家主義的「愛国心」の台頭について、欧米のマスメディアも報じている。
 日本政府は〈人種差別撤廃条約〉を一九九五年一二月に批准、だが同条約第四条(a)と(b)は留保のまま、完全批准していない。ヘイトスピーチなどの人権侵害行為を取り締まれない理由として、そのような法律は日本国憲法第二一条が保証する「言論の自由」に抵触すると日本政府は主張する。つまり、「新自由主義」政権らしく、「言論の自由」などを「無制限な自由」と拡大解釈している。
 〈人種差別撤廃条約〉第四条の「留保を撤回し、人種差別思想の流布等に対し、正当な言論までも不当に萎縮させる危険を冒してまで処罰立法措置をとることを検討しなければならないほど、現在の日本が人種差別思想の流布や人種差別の煽動が行われている状況にあるとは考えていない。(…)撤回又は範囲の縮小は考えていない」との報告書を、日本政府は一三年一月に国連の「人種差別撤廃委員会」に提出した。現実逃避で虚偽の開き直りである。日本政府が〈人種差別撤廃条約〉第四条の留保撤回を頑強に拒む真の理由は、軍事同盟国アメリカ合衆国政府も同条を留保にしているためだろう。もっとも、そのアメリカには○九年一○月二八日成立のヘイトクライム防止法がある。
 日米両政府が留保にしている〈人種差別撤廃条約〉第四条は、「人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動」を「法律で処罰すべき犯罪」と定めている。「負の歴史」の否定・矮小化・相対化なども同条の範疇だと考えるのが妥当だろう。だが、それを規制する法も日本国にない。そのため、日本の政治家などがそのような発言を年中行事のように繰り返し、国際社会の顰蹙を買っている。
 当然、「言論の自由」は無制限な「自由」を意味するものではない。人種・民族・国籍差別的な発言、あるいは史実の捏造、改竄やその故意な忘却に立脚した「言論」によって、他者の人権や尊厳を冒リヲし、蹂躙しても構わないような「言論の自由」は、近代民主主義国家において存在し得ない。「正当な言論」を守るためにこそ、ヘイトクライムや「負の歴史」の歪曲を試みる発言を規制する法律の制定が必要となろう。
 もっとも、法のみで差別や史実歪曲の発言を阻止するのは限界がある。厳格な罰則規定を含むヘイトスピーチ規制法があるヨーロッパ諸国でも、ヘイトスピーチやヘイトクライムは後を絶たない。日本国だろうが諸外国だろうが、そのような発言をする人びとには共通性がある。歴史についての無知と人権についての無理解である。どの国家であろうと「負の歴史」の側面を負う。その「負の歴史」も包み隠さず教える正しい歴史教育、また人権が自分たちのみにあるのではなく、「すべての人間が生まれながらに享有する永久不可侵の権利」であると教える人権教育、さらに生徒・学生でない市民の社会啓発が最重要なのではないかと考える。

(かねこ・まーてぃん/日本女子大学教員・反差別国際運動事務局次長)


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