コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2014/11/19up)




◆ エクアドル・インタグ鉱山開発危機 ◆

〈『部落解放』2014年11月号掲載〉

一井リツ子

 南米エクアドルは赤道直下に位置し、アマゾン河、アンデス山脈、ガラパゴス島を含むさまざまな風土から、貴重な生態系を生んでいる。昨年、私が訪れたインタグ地方はアンデスの裾野に位置し、この地を育む雲霧林は世界の熱帯雨林のなかでも二・五%、地球上にある二五の環境ホットスポットのうち二つを有し、世界でもまれにみる豊かな生物多様性の土地だ。
 しかし、これまで度重なる鉱山開発(銅、モリブデン)の危機が繰り返され、まず一九九〇年代には、日本/JICA(独立行政法人国際協力機構)により委託を受けた三菱マテリアルが試掘(ボーリング調査)を行い、現在まで続くヒ素や重金属の混入による河川の汚染をひきおこしている。生活用水となっていたこの水には、当時大量のエンジンオイルなども垂れ流しにされ家畜が死に皮膚病が発症したが、三菱マテリアルは一切の関与を否定している。
 二〇〇四年からはカナダのアセンダント社という企業が参入し、住民への買収・脅迫・嫌がらせ、暴力行為が横行した。しかしこれまで住民らの必死の抵抗などでなんとか開発を食い止めてきたが、現在ではエクアドル鉱山開発公社エナミと、合弁したチリ銅開発公社コデルコ(世界最大級の銅の企業)が開発を強行しようとしていて、これまで以上の危機的な状況となっている。
 これまで環境・先住民の保護的な政策をとっていたエクアドル政府も資源ナショナリズムを推し進め、開発に反対する者は発展を阻害する民衆の敵として大統領本人に批判されるなど非常に強権的な姿勢が目立つ。
 三菱マテリアルの試掘地まで、往復九時間の山道を一緒にドロドロになりながら同行してくれたハビエル・ラミレスさん(開発予定地フニン村村長)は、「反逆罪・テロリズム」として不当逮捕され五カ月が経つ現在も拘留中である。住民と企業とのいざこざにかかわったという罪状のようだが、彼はその日現場にいなかったという証言が複数ある。私が知るハビエルさんは素朴で温厚な人柄で、地道に村や自然の保護を訴えていた農民であり、彼ら住民は開発に代わる有機農牧業やエコツーリズム、フェアトレードコーヒーの栽培などを営み、自然と共存する道を選んでいる。
 現在彼の自宅には監視カメラが取り付けられ、四人の子どもの一人は食事を拒むようになり、この間の家族の心労ははかりしれない。五月には二〇〇〜三〇〇人規模の警察隊をともなった鉱山企業の強行突入により、彼の母親であるロサリオ・ピエドラさんは地面をひきずられ腹部を棍棒で殴打されている。彼女は以前、夫を住民間のいざこざで亡くし、現在ではその息子が犠牲となっている。彼女らの背負う苦しみはどこから引き起こされるのか? 私たちの過剰な消費のために、永年暮らす土地でただ穏やかに暮らしたいという当然の願いを踏みつけ、開発がもたらす「豊かさ」とは何か? 鉱山開発による大規模な森林伐採、落盤、基準値の一〇〇倍を超える重金属による水質汚染、大量の廃棄物・化学物質処理の不備、自然災害による汚染水の流出、生態系・健康への悪影響、コミュニティの離散など懸念事項はあとを絶たない。フニン村は一時道路封鎖され占拠状態となり、現在でも数十人の警官が駐屯し監視を続けている。

(いちい・りつこ/「インタグの鉱山開発を考える」実行委員会)


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