コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2015/1/22up)




◆ 橋下大阪市長と在特会の面談が意味するもの ◆

〈『部落解放』2015年1月号掲載〉

郭辰雄

 日本全国に拡散したヘイト・スピーチ(憎悪・差別の扇動表現)を象徴する事件のひとつである「京都朝鮮初級学校襲撃事件」の控訴審の判決公判が、二〇一四年七月八日におこなわれた。在特会らが二〇〇九年一二月から翌年にかけて、三回にわたって「スパイ養成学校」「朝鮮人を叩き出せ」などと攻撃を繰り返したこの事件に対して、京都地裁に引き続き、大阪高裁も明らかな人種差別行為であるとして一二二六万円の高額賠償と、学校周辺の街宣禁止の仮処分を認めた。
 この判決の直後、大阪市の橋下市長が記者会見で、「大阪市ではヘイト・スピーチは認めない」とし、何らかの対策をとっていく意向を明らかにした。
 私たちコリアNGOセンターもこれを受けて、七月に大阪市に対してヘイト・スピーチ対策を求める要望書を提出しているが、一〇月末現在で大阪市のヘイト・スピーチ対策は大阪市人権施策推進審議会の検討部会で議論が進められている。その渦中の一〇月二〇日、橋下大阪市長と桜井誠在特会会長が大阪市役所で面談した。ちなみにこの面談に先立ってコリアNGOセンターは、まず被害当事者の声を聞くべきであるとして市長に面談を求める要望書を提出したが、それは拒否されている。
 面談の冒頭のやり取りは、橋下市長の「民族とか国籍をひとくくりにしてな、評価をするようなそういう発言をやめろと言ってんだ」という発言に続いて、「朝鮮人を批判するってことがいけないと、あなた言ってるわけ?」(桜井)、「お前なぁ」(橋下)、「『お前』って言うなよ」(桜井)、「うるせぇお前。お前が……」(橋下)と続き、面談はわずか一〇分たらずで終了した。大阪市民の代表である市長の乱暴な言葉の応酬に対して、市役所には多数の苦情や抗議が殺到したというが、それでも橋下市長がヘイト・スピーチを許さない姿勢を示したことに共感する声も少なくなかった。
 しかし、翌日の記者会見で橋下市長は、維新の党の共同代表の立場で「特別永住」制度の問題点を検討することを明言したのである。そもそも「特別永住」とは特権的に付与されているのではなく、日本のアジア侵略のいわば生き証人である旧植民地出身者とその子孫の歴史的背景を考慮し、入管法とは別の法律によって規定されているものである。それを見直すことは、ヘイト・スピーチを繰り返してきた在特会の主張を政策として受け入れることを表明したに等しい。特別永住をはじめ、在日コリアンの歴史や在日特権なるものがどういうものかを理解したい方は、『知っていますか? 在日コリアン一問一答』(解放出版社、二〇一四年一二月発刊予定)を参照していただきたい。
 こうして見るとこの面談は、橋下市長側から見れば、ヘイト・スピーチに毅然とした姿勢をとる姿を市民にアピールするとともに、在特会の主張の受け皿になることを表明することで、今後の協力が期待できるというメリットがあり、在特会側には、市長(国政政党代表)とやりあう姿を見せることで存在感を示し、みずからの主張を公論化していくきっかけを得た、双方に意味のある、いわば「出来レース」ともいえるものであったのではないだろうか。
 こうしたなかで大阪市がどのような実効性あるヘイト・スピーチ対策をとれるのか、しっかりと注視していく必要があるだろう。

(かく・ちぬん/コリアNGOセンター代表理事)


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