コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2015/2/19up)




◆ 子どもが政治に泣いた日 ◆

〈『部落解放』2015年2月号掲載〉

高遠菜穂子

 二〇一四年一二月一四日、衆議院選挙の翌日。選挙の話題が年頃の子どもを持つ母親たちから出てきて、意外な人たちが選挙に高い関心を示していたことを知って驚いた。
 「うちの子(小学高学年)、朝起きるなり選挙報道を見てまたジミンか……≠チてつぶやいたのよ。私、焦ったわ」
 「うちのダンナ、投票に行かなかったんだけど、中学生の息子にマジ信じらんね!≠ニなじられてたわ」
 「うちの息子、テレビで集団的自衛権の話が出ると、耳に入れてたイヤホンを外して聞き耳立てているのよね」
 「もしかして、子どもたちの方が関心が高い!?」と大人たちは一様にびっくり顔。たしかに、子どもたちが選挙にこんなに高い関心を示すなんて聞いたことがない。
 東京では、高校生や大学生が首相官邸前で秘密保護法反対デモを始めたり、私のイラク報告会でも多くの学生たちが世界情勢に強い関心を示し始めていることはなんとなく感じてはいたが、この危機感の広がりは想像以上かもしれない。
 そんなことを考えながら、私はある高校に向かい「暴力の連鎖が続くイラクから見る日本」というテーマの授業を行った。戦場とはどんな場所か、銃とはどんな道具か、「対テロ戦争」とはどんなものなのか。暴力の連鎖はなぜ起きるのか。残虐性はどこからくるのか。生徒たちは真剣だった。情報をどう得たらよいか? 自分が目指している職業と国際社会に貢献することは両立できるか? など自分にぐっと引き寄せた質問も出てきた。もちろん、どんな仕事でも世界につながっていない仕事はないし、大切なのは何をするかではなく、その仕事にどんな想いをどれだけ込めて臨むかだと伝えた。情けない私でもこうやって生きているのだから、あなたたちはもっといろんなことができる可能性の塊だと。生徒たちが泣きながらこっちを見ていた。イラク情勢にも日本の「鎖国ぶり」にもとっくに絶望していた私は、その強い眼差しのなかにやっと希望を見出した。
 放課後になっても生徒たちの質問は続いた。
 「僕の友人は自衛官学校に通っています。今回の選挙の結果を見て、友人のことを考えました。もし、彼が海外で戦闘をして誰かを傷つけたり、傷ついたりしたとき、僕は彼とどう向き合えばよいのでしょうか」。生徒は涙をこらえ、時々声をつまらせながら言い終えた。私も涙がこぼれないよう息を止めていた。「不安にさせてしまったね。大人に腹が立つでしょう」と謝った。そんな状況にはすぐにはならないよ、ならないように大人たちは全力を尽くすよと約束した。
 戦場への距離が近いと感じているのは、大人より子どもの方かもしれない。これは子どもたちからのS.O.Sだと思った。私はこの日を「子どもが政治に泣いた日」として記憶しよう。子どもたちのために全力を尽くそう。雪の帰り道、そう誓った。

(たかとお・なほこ/イラク支援ボランティア)


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