コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2015/7/17up)




◆ 有効な「ヘイトスピーチ」対策を求める会の発足 ◆

〈『部落解放』2015年8月号掲載〉

板垣竜太

 二〇一五年三月一九日、「京都府・京都市に有効なヘイトスピーチ対策の推進を求める会」(以下「求める会」)が発足した。日本は、人種差別撤廃委員会をはじめとした国連の人権諸機関から、人種差別の言動を無くすための法規制を求められつづけているが、日本政府は新たな法令をつくるほどの深刻な状況にはないとして留保継続の姿勢を貫いている。既に国会議員連盟が法案を提出してもいるが、実際に立法にまで至るには相当の時間がかかるであろう。しかし、もたついている最中にも、日本に住む民族的・人種的マイノリティはさまざまな場での差別的言動、制度的・社会的な差別にさらされている。そうしたなか、せめて地方からでも何らかの「有効なヘイトスピーチ対策」を進めるべきだ――そのような趣旨から「求める会」は発足した。
 ただ、京都でこうした運動を立ち上げる背景は、そのような一般的な状況だけにあるわけではない。この会の出発点には、二〇〇九年一二月に起きた京都朝鮮第一初級学校襲撃事件と、それに対する訴訟運動があった。二〇一四年末に確定した判決は、民族教育の営みが損害を受けたと認定した初めての判例となるとともに、人種差別撤廃条約の国内法不在という問題があらためて浮き彫りになった点でも画期的なものであった。しかし被害当事者が苦渋の思いで民事訴訟に踏み切り、法廷で五年も争って辛うじて結果が出るような状況でよいのか。その発端となる事件を引き起こさせてしまった京都において、地方公共団体は何らの積極的対策も打ち出さなくてよいのか。市長の「鶴の一声」で法整備が進められている大阪市とは異なり、京都府・市はこの事件と裁判を原点に据え、「有効な対策」を早急に立てなければならない。
 その際に、「求める会」が重視しているのは被害者側、マイノリティ側の視点である。人種差別は「やる側」には一時のことであっても、「やられる側」には一生の経験となってしまう。したがって未然防止こそが最も重要な課題であり、それは人種差別撤廃条約によって地方公共団体にも課せられた責務である。また、日本政府はいま立法するほどの状況にないと言うが、今日に至るまで被害の実態を公的に調査したことなどない。だから、「求める会」は、府・市に被害実態調査とそれにもとづく被害者救済策・支援策を求めている。そのうえで、被害当事者を含む市民の声を受け止め、府・市の縦割りをこえた枠組みで、条例なり宣言なり何なりの「有効な対策」を講じなければならない。
 それが「求める会」の要求の概要だが、もう一つ、制度的差別の是正を合わせて求めている点を最後に指摘しておきたい。大阪市は「ヘイトスピーチ」規制を具体的に推進している点では注目されるが、その一方で府とともに朝鮮学校への補助金カットをいち早く推進したことで、人種差別撤廃委員会にも「懸念」を表明されるという矛盾を抱えている。そうした矛盾を越え、民間の団体や個人による「下」からの人種差別にとどまらず、行政などによる「上」からの差別を許さない枠組みを合わせて構築してはじめて、「対策」はより積極的な意味での「有効」性を持ちうるであろう。

(いたがき・りゅうた/同志社大学社会学部教授)


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