コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2015/9/25up)




◆ モザンビークから来日した農民の訴え ◆

〈『部落解放』2015年9月号掲載〉

津山直子

 アフリカの二十カ国以上で、外国投資による農地取引で農民が土地を失う事態が起こっており、「土地収奪」(ランドグラッブ)と言われている。世界の農地取引面積の約六五%がアフリカに集中している。農民や地域コミュニティの土地使用権が保護されず、反対に投資側には手厚い保護を提供する国がターゲットとなっている。
 それらの国の一つが、アフリカ南東部の国、モザンビークである。なかでも北部三州にまたがる「ナカラ回廊」地域で急速に土地収奪が進んでいる。熱帯サバンナ気候で降雨量に恵まれた肥沃な土地が多く、農家は二ヘクタール前後の畑でトウモロコシ、キャッサバ、米、豆・イモ類、野菜、カシューナッツ、マンゴなど多様な作物を作っている。しかし、そこに外国のアグリビジネスによる数千ヘクタールの大規模農場が作られ、正当な手続きや保障がないままに農民は家や畑を失っている。
 そして、同地域では二〇一一年から日本の政府開発援助による「プロサバンナ事業」が実施されている。日本とブラジルが連携し大規模農業開発を進め、日本への輸出向け大豆などを生産しようと計画された。トップダウン式で地元農民の意見を聞くことなく、不透明な部分が多い事業に、農民組織やNGOから一時停止と再考を求める声明が何度も出され、国内外で批判の声が高まってきた。
 そのなかで、今年三月末に「マスタープラン」という総合計画が、突然モザンビーク政府のウェブサイト上(ポルトガル語)だけで公開され、それに続き対象地一九郡で形式的な公聴会が開催された。参加者の多くは農民ではなく、動員された教員、警察官などの公務員だった。事業に異議を唱える農民は、脅迫や嫌がらせを受けている。
 現地での深刻な事態を受け、七月に最大の農民組織であるモザンビーク全国農民連合(UNAC)を代表して、三名が緊急来日した。彼らは、農民の意見を尊重した計画を作り直すことを外務省・JICAに直訴した。報告会や国会議員との会合も行った。プロサバンナ事業の実施過程や内容の問題とともに、「農民が自らの農業への決定権を持つ『農民主権』が侵されてはならない」ことを主張した。
 自らの農業に誇りを持ち、次世代のために土地を守ろうとする彼らの強い意志は、多くの日本の人びとの心に響いた。福島県の農村を訪問し、農民交流を行った際には、「原発事故で農民が田畑や家畜を失ったことは悲しすぎる。日本の農家は小規模な田畑を有効に使っていて、学べることがたくさんある。日本政府がなぜ私たちの国で大規模農業を進め、大型トラクターを援助するのかわからない」と語った。
 さらに、ナカラ回廊地域では日本企業(三井物産)も投資し鉄道の改修が行われたが、地域住民の貴重な足であった鉄道が、炭鉱から港まで石炭を運ぶ専用線になってしまった。途中駅は廃止され、町に作物を売りに行っていた農民は交通手段を失った。
 だれのための開発だろうか。グローバル化のなかで植民地時代の再来のような状況が進み、農民たちは再び苦難を強いられている。

(つやま・なおこ/アフリカ日本協議会代表理事)


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