コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2016/10/14up)




◆ マジョリティがマジョリティの特権を追及する責任 ◆

〈『部落解放』2016年10月号掲載〉

出口真紀子

 十数年前、米国である学会に参加したとき、大学院生が貧困地域の高校生の進学支援のためのメンターになるというプロジェクトの発表があった。メンター役を担った大学院生のほとんどが白人で、支援対象の高校生のほとんどが有色人種だった。
 質疑応答で白人男性の大学院生が、「大学院生のみなさんは、自分たちが白人であることと、このプロジェクトに関わったことをどのように感じ、考えたかを聞かせてもらえませんか?」と質問した。空気が緊張した。大学院生たちは何を聞かれているのかがよくわからないのか、戸惑った表情を浮かべていた。大学院生の一人が、「私について言えば、別に人種とかは関係なく、ふつうに接するように心がけた」と応答した。
 すると黒人女性の大学教授が、その質問をした白人男性の方を振り向き、「その質問をしてくれてありがとう。あなたのような(白人の)人がいるおかげで、私はこの(人権教育の)仕事を続けていくことができるのです」と言った。当時まだ大学院生だった私は、白人性特権について学んだばかりだったが、自分が非常に重要なメッセージが込められた場面に遭遇しているのだと直感した。
 質問をした白人男性は、白人が白人であることで制度的・文化的に与えられる人種的特権をどの程度理解・自覚し、そして有色人種が多数いる場でそうした特権とどう折り合いをつけているのか、というマジョリティ(特権集団)の人間として当然考えるべきことを問うたのだった。これは、米国において「人種なんて関係ない。人間の人格こそが大切である」というカラーブラインドの考え方に異議を唱えると同時に、白人が自分の特権にきちんと向き合い、特権の意味するところを内省することなく人権教育に携わる危険性に対する戒めも含んでいる。発表をした白人の大学院生たちの応答は、彼らの白人性特権の自覚がまだまだ薄いことを露呈してしまったが、その場は彼らにとっても貴重な学びの機会となったにちがいない。
 これまで、白人性特権の自覚を促すのは、いつも有色人種の人々の役回りだった。黒人、ヒスパニック、アジア系の人たちが白人に同様の質問をすると、「有色人種の人たちは、今まで受けてきた差別の恨みで白人に対して厳しく、過敏な反応をしているんだろう」と、軽視してきた長い歴史がある。しかし、少しずつではあるが、白人特権を指摘する役割を白人たちも担い始めている。そして、そのような白人をマイノリティ側が評価したのが前述の場面だった。黒人女性の教授の発言は、「白人が白人性特権の自覚を促す重要性」を、他の参加者に認識してもらうためだったのだ。
 日本ではマジョリティである多くの日本人は自分たちが「ふつう」であると思い、特権を有しているなどと思っていない。「差別はしてはいけない」と思ってはいるが、自分が差別に加担しているという自覚はない。これはマイノリティにとっては抑圧的で差別を助長する環境にほかならない。これからの人権教育では、マジョリティの特権意識や特権の心理に焦点を当て、日本人特権、階級特権、男性特権、異性愛特権などに自覚ある日本人を増やしていく必要がある。私もマジョリティ側の人間として、微力ながら、大学で「立場の心理学:マジョリティの特権を考える」という授業で日々実践を試みている。

(でぐち・まきこ/上智大学 外国語学部 准教授)


コラム・水平線INDEXに戻る



HOME

JINKEN BOOKは、(株)解放出版社が提供しています。 無断転載を禁じます 。
Copyright (C)Buraku Liberation Publishing House Co.,ltd 2001, All Rights Reserved


E-mail

(株)解放出版社
Phone:06-6581-8542(代表) Fax:06-6581-8552
東京営業所: Phone:03-5213-4771(営業) FAX:03-3230-1600