コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2016/11/15up)




◆ 僕だけじゃなかった ◆

〈『部落解放』2016年11月号掲載〉

南 和行

 僕は弁護士をしているが、同性愛者であること、パートナーも弁護士であること、二人でやっている事務所で僕の母が事務を手伝っていることなど、ちょっとした「珍しさ」もあって、「LGBT」の当事者としての講演依頼を最近とてもたくさんいただく。弁護士としてのキャリアも浅い僕が何を偉そうに、というためらいもあるが、同性愛がおかしいことではないと多くの人に気づいてもらうきかっけになればと思い、できる限り引き受ける。
 講演で話す内容は、もっぱら自分の身の上話だ。思春期に「なんで自分は普通の男の子と違うのだろう」と悩んだこと、同性愛をカミングアウトしたとき母親との衝突や葛藤があったこと、恋人と出会って共に司法試験を目指したこと、その過程で母と関係を修復したこと、そしてなぜわざわざ本を書くなどして自分のことを話して回っているのかという今の気持ち。自分のことを人前で話すのは何度やっても慣れない。その都度、母との葛藤を思い出して涙があふれたり、「本当の自分」を隠していつも人の顔色をうかがっていた思春期の頃を思い出して胸がつまったりする。
 講演の会場の中に、自分の中学時代の同級生がいることもある。僕は人の顔も名前もよく覚えるたちだから、相手から声をかけられなくても僕が講演の途中で気づくことがある。ドキッとする。「同性愛者である僕は、男女の恋愛話などになると自分の居場所がなくなる気持ちがして、逃げ出したくなりました……」という僕の語りは本当だろうか。「いつもクラスの優等生で、友だちに囲まれていたじゃない」と、当時の僕を知る同級生に思われないだろうか。
 僕が同性愛者として感じた孤独感は嘘ではない。本当のことだ。「本当の自分」を隠さなければならない苛立ち、「本当の自分」がバレたらどうなるかという不安、僕の「本当の自分」は孤独感の中にあった。でも幸いにして僕の「孤独感」は現実の「孤立」にはならなかった。僕はむしろ快活で社交的に見えるように、「本当の自分」がバレないように振る舞うことができた。
 チラリと心をよぎる。だけどあの教室で、「本当の自分」を話すことができず「孤独感」に苛まれていたのは、僕だけではないはずだ。誰かともっと仲良くなりたいと思ったとき「本当の自分」を話すことができず、自分の気持ちを伝えられないもどかしさを味わったクラスメイトは僕だけではないはずだ。同性愛に限らず、みんなが「本当の自分」を安心して話せる場所だったのなら。  「中学生のときとなんにも変わらないね」と講演のあとで中学校の同級生が感想を話してくれた。その子が一人でお弁当を食べていたこと、修学旅行の自由行動のグループ分けがなかなか決まらなかったことが頭の中でよみがえる。僕自身も自分のことばかりを考えて、自分以外のクラスメイトに「本当の自分」を話しにくくさせていたのかもしれないとも思う。
 「来てくれてありがとう! 嬉しかった。自分ことを話すのを聞かれるなんて恥ずかしいよー」。僕はようやくそのクラスメイトと仲良くなることができた。

(みなみ・かずゆき/なんもり法律事務所 弁護士)


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