コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2017/4/17up)




◆ 七二年、終わらない人権侵害 ◆

〈『部落解放』2017年4月号掲載〉

角南圭祐

 戦争は最大の人権侵害だ。太平洋戦争が終わって七二年目を迎えたが、空襲被害者の救済や放置された戦没者遺骨など、未解決のまま人権侵害が続く問題も多い。
 一九四五年三月一〇日夜、米軍の爆撃機が東京上空を覆い尽くし、無差別に市民を殺した。一晩で一〇万人が犠牲になったとされ、これは米国史上最大級の大量虐殺と言える。この日以降、日本全国の町が空襲を受けた。当時、「逃げずに消火にあたれ」とする防空法があったため、犠牲者が増えた。つまり日本政府にも、空襲被害者を救済する責任がある。しかし、司法は「戦争損害は国民がひとしく受忍するもの」(八七年、最高裁)との理由で、救済を退けた。国会には、被害者に年金を支給する援護法案が一四回も提出されたが、すべて廃案となった。
 今国会で、与野党超党派の「空襲議連」が、新たに補償を模索している。空襲で障害を負った生存者に限り、三五万〜一五〇万円の給付金を支出する特別措置法案を検討中だ。既に亡くなった被害者も多いだろうが、法案の行方を見守りたい。
 「国の責任で」と銘打って大きく動き始めたのが、戦没者遺骨の収集・返還だ。沖縄を含む海外で亡くなった戦没者は約二四〇万人。国による遺骨収集事業は一九五二年度に始まり、これまでに約一二七万人分の遺骨が収集された。未収容は約一一三万人分だ。遺族は、骨の一片でも故郷に帰ってくる日を待ち続けている。
 しかし厚生労働省による遺骨収集事業には、全力で責任を果たそうとする姿勢が感じられない。厚労省は現在、激戦地だった沖縄の南部四地域で先行して、DNA鑑定による遺骨と遺族の照合作業を進めている。発掘・保管されている約六〇〇体のうち、厚労省が検体に選んだのは八七人分だけ。残りは鑑定せず、火葬する方針だ。頭骨がなく一部しか発見されない遺骨や、複数人が折り重なった遺骨など、個体性がはっきりしないものは除外し、歯のある遺骨だけを対象にしているためだ。
 沖縄戦で伯父を亡くした三重県の男性(六〇)は「遺骨を遺族に返そうという気持ちがあれば、焼く骨と鑑定する骨を区別するはずがない」と、全遺骨の鑑定を求める。こうした遺族の必死の訴えにより、厚労省は歯だけでなく手足の骨からも検体を採取することにしたが、「個体性」の問題は宙に浮いたままだ。
 戦争には、朝鮮半島や台湾の出身者も日本人の軍人や軍属として動員され、戦死した人も多い。しかし厚労省は「日本人遺骨と思われるものだけを持ち帰り、DNA検体を採取する」との立場だ。これに韓国人遺族は「当時は日本人だったからと靖国神社には無断で合祀したのに、遺骨ではなぜ差別するのか」と憤りを隠さない。当然の怒りだ。今国会には朝鮮・台湾出身のBC級戦犯への補償法案も準備されている。国が始めた戦争なのだから、被害者救済には国が責任を持たなければならない。そこに現在の国籍は関係ないはずだ。すべての戦争被害に真剣に向き合うことが、未だに続く人権侵害を終わらせる唯一の道だ。

(すなみ・けいすけ/共同通信記者)


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