コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2017/7/18up)




◆ ファースト!―この悪魔のささやき ◆

〈『部落解放』2017年7月号掲載〉

奥田知志

 世界は分断されつつある。「ファースト」が分断を促進させる。米国大統領は「アメリカンファースト(米国第一主義)」を掲げ当選した。国力が低下するなか、自国経済の建て直しを最優先すると明言し、多く人の心をくすぐった。このような「自国第一主義」は、ヨーロッパ、世界へと広がりつつある。さらにこの傾向は、国家に留まらず民衆にも広がり「自分のことだけ」を考える人びとが増え、「自己責任だ」と他者を切り捨てるようになった。
 「あなたが一番」と言われて悪い気はしない。ましてや自信喪失のとき、「あなたが一番大切」と誰かが言ってくれたらどれだけ安心か。「ファースト」と語るリーダーには大衆の期待が集まる。その期待を利用し、さらに極端なことを権力者は言う。ポピュリズムである。
 しかし「ファースト」には落とし穴がある。「ファースト」と宣言した途端、「セカンド」が、「サード」が生まれる。現に米国は「ファースト」を宣言し、同時に入国禁止七カ国を発表した。東京都知事は「都民ファースト」と言うが、六本木の高級マンションに暮らす人から木造モルタル安アパートに暮らす人まで存在するのが「都民」の現実である。そのような恐ろしいほどの格差を無視し「都民ファースト」と一括りにしたところで、その言葉になんの意味があるのか。先日、復興大臣は「これが(大震災)まだ東北で、あっちの方だったから良かった」と発言。大臣の資質云々ではない。人間性を疑う。ここにも「ファースト」が見える。この大臣にとって東京あるいは首都圏が「ファースト」だった。つまり大臣は「二の次、三の次の東北で良かった」と言ったのだ。国政を預かる大臣が序列と分断を促進している。
 多くの人が「ファーストは自分のことだ」と信じ期待する。が、少々冷静になった方がいい。「自国第一主義」は「自分のことだけ」考える故、他者に非寛容となり攻撃的になる。現在EU各国は、移民排斥、保護主義を巡り分断されつつある。在日コリアンに対するヘイトスピーチを行ってきた在特会元会長が立ち上げた政党名は「日本第一党」だという。マンガみたいにわかりやすい。
 多くの人が不安を覚え自信を失いつつある時代、「ファースト」は悪魔的な魅力を持つ。自分に対して「ファースト」と言ってくれる指導者が救世主のように見える。そんな庶民の心情を心得えた権力者たちは「ファースト」の対象を操り、人びとを虜にする。また、自分に反する人を「二の次へ追いやるぞ」と脅迫し、支配を強める。
 「そのファーストに自分は本当に含まれているか」。落ち着いて問いたい。たとえ「含まれていた」としても、その結果、本来共に生きるべき誰かと分断されていないか、考えたい。
 「ファースト」を「分断のことば」ではなく「共生のことば」に変えよう。そのために「ファースト」を「普遍的価値」に対して宣言するようにしたい。「いのち」「平和」「人権」。これらが本当の「ファースト」に他ならない。それは普遍的である故に、自分だけが幸福になるとか、あるいは自国だけが豊かになるということにはなり得ない。
 「いのちがファースト」。これでいいではないか。

(おくだ・ともし/NPО法人 抱樸 理事長)


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