コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2018/5/23up)




◆ いつもそばにある歌や躍り ◆

〈『部落解放』2018年5月号掲載〉

川口真由美

 「真由美さん、平和の道は遠いぜ」。仲間がポツリと話したことを思いだす。平和運動のなかにある、思い違いや少しの方向性の違い、それらから生まれるいざこざ、まとめようとする人たちの労力、何とかしたい、しかしながら修復できない事柄も多くある虚しさ。  苦しいとき、知らぬ間に歌を口ずさんでいる。気持ちが紛れたりする……。
 原点から原点へ。幼い頃から母親が私たちを笑わすために面白躍りを躍ってくれた……そして「昔話」をまったくちがうものに変えたりする、その面白さに吹き出していた。替え歌をさせれば天下一品、物真似もピカ一。私の「今」に、この母親がキーパーソンであることをそこここで強く感じる。
 父親が別居状態で家におらず、母親が切り盛りしていた。団地の一室、夜になると近所の人たちとの宴会が始まる。なだめあうように楽しいことに目を向けて生きていた。
 私は、母親を守る子どもだった。そこにしかすがるところがなかったのと、母親を幸せにしたかった。
 父から給料がわたる事がなくなり、月に一度、職場へ出向くか、駅で待ちぼうけをして、給料の出た父親を捕まえてお金を受けとる。弟と一緒に連れられるその時間がとても嫌だったが、母親と共に居た。「お母さんを困らせたらあかんで!」が私がよく弟に話していた話。  生きていく事に、思いを寄せていた。どうすれば、助けられるか、どうすればここからよくなれるのか。自分が生きる権利より、母親の生きる権利を優先して守ろうとしていた。
 だんだんと物わかりもついてきた時「私は何やってんの? お母さんの事ばっかり考えてていいのか? 私はどこにいるねん」と、思い始めた。環境が変わり、他の社会コミュニティーを知り、こんなにも、悩みや暮らしの根本が違う人たちが居るんだ! という気づきがあった。生きることに悩まない人たちを作る環境に関心を持った。貧困格差を知った……周囲に合わせて取り繕ろい、「悩みのないあんたに何がわかるねん!」と心のなかに、冷めた私がいた。
 団地のおばちゃんに、「無理すんな、無理しても出れへん世界がある」と言われ納得した。私の貧困は続き続けた。私自身を失ったまんま、子どもを育てていった。
 家族に守られる人たちに憧れる時もあった。沖縄の、広く連帯していくコミュニティーに強く関心を持った、そして辺野古と出合った。歌や躍りが現場にあった。
 大阪の貧困格差問題に取り組むおっちゃんに「よくこっち側に立てたね。憲法や平和が、あんたの問題になったことがうれしい」と言われ、こうも言われた。「立場が違うひとたちのなかで、個人を超えて行動できなければ平和はなかなか来ねえ、そう思うよ」と。私は、ハッとした。周りの人びとにいつも救われてきているということ。生きているその事がとても大切であるということ。  挽回したる! と思った。一度死んだつもりで、これからを生きる人たちを守りたいと思った。傷ついていい人、虐げられていい人など、どこにもいないんだ、と身にしみている。日々の暮らしのなかで、尊厳が守られることの大切さ、当たり前の暮らし、差別されないことの大切さに目を向ける。誰が誰に苦しめられているのか、またその社会の仕組みについて、考えを深める。
 人権が叫ばれるのは、虐げられ苦しめられる事が大きな火種なのか。怒りを炊きながら、私を超えたいと願う。私を超える、に平和への道、人権蹂躙を許さない闘いへの力添えがある気がしてならない。

(かわぐち・まゆみ/シンガー・ソングライター)


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