コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2018/12/18up)




◆ 動かないことを動かすために ◆

『部落解放』2018年11月号掲載

三輪敦子

 すっかり有名になった#Me Tooだが、最初に声を上げた女性たちの勇気に心から敬意を感じると同時に、支援が一気に拡がったことに感銘を受けている。
 一方、日本では、#Me Tooにつながる事件がいくつも起き、怒りの声は聞くものの、「山が動く」力にはなっていない。さらに、人権侵害を告発する女性は、ネット上で数々の中傷と侮辱にさらされ、そのことによって沈黙に追い込まれるという由々しき状況がある。国外脱出を余儀なくされた事例もあり、これは難民と表現できるのではないかと暗澹とする。
 このような状況があるから女性は声を上げられないのか、あるいは、女性が声を上げないからこのような状況が続くのか。しかし、その前に、「嫌だ」「おかしい」と思いはしても、どこかで「しかたがない」と感じている女性が思いの外、多いのではないかと感じている。
 各国における女性差別撤廃条約の実施状況をモニターする女性差別撤廃委員会は、近年、男女に関する固定的な意識の変革の必要性を強調するようになっていて、そのための教育や啓発が重要であることを繰り返し指摘している。両性の平等を実現するために法律を整備し、政策や制度もつくった。でも、それでも動かないこと、変わらないことがあるということだと思う。
 ある大学で「女性の健康と法」という授業を担当しているが、この授業を通じて感じ始めたのも、日本に決定的に欠けているのはこの意識の変化ではないかという懸念である。
 交際している男性に、避妊してと頼まなければいけない、あるいは相手が年上なので、そんなこと自分から言えないと思っている女子学生。問題なのは、「身体を大切にする」ことは当たり前のこととして理解しているのに、それが男性との関係性のなかでは、どこかに忘れ去られてしまう、あるいは、そのことが「身体を大切にする」ことの核心の一つだとは理解できていないことである。こうした経験から、女性が身体的、精神的、社会的健康を実現するには以下の三つの意識を醸成することが重要だと考え始め、授業のサブテーマに掲げるようになった。
 一点目は「身体を自分に取り戻す」。これは自分の身体は自分のものであることを他人との関係性のなかで実現できることである。暴力をふるわれない、妊娠の不安を感じながら性的関係をもたないことであり、そのためにきちんと自身を主張できることも含まれる。
 二点目は「自分自身を自分で定義する」。他者の視線や誰かの評価を基準にして、服装、髪型、化粧、振る舞い方を決めることから自由になり、私は私、なりたい私は自分が決めるということを意味する。「他人の視線」を基準にして自分を「つくる」ことに慣れすぎている女性があまりにも多い。
 三点目は「女性であることを祝福する」であり、女性であることに自信をもち、引け目を感じずに生きることになる。「女性は出産と子育てがあるから働き続けるのは難しい」と考えるようでは、女性は安心して生活できない。「女性は腕力では男性にかなわない(から男性には従わないといけない)」といった「いつの時代?」と思うような意見が自然に出てくる限りは「女性であることを祝福する」ことは難しい。
 一歩を踏み出すために、起きてきた変化を理解することも大切だと感じている。動かないこと、変わらないことを動かすために、嫌なことは嫌と言おう。そして怒ろう。そうやって開いてきた扉はたくさんあるのだから。

(みわ・あつこ/(一財)アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)所長)


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