コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2018/12/18up)




◆ 「#呪いの言葉の解き方」 ◆

『部落解放』2018年12月号掲載

上西充子

 ツイッターのハッシュタグ(#)をご存じだろうか。ハッシュタグをつけてつぶやくことによって、共通の話題を取り上げているツイートを見つけやすくする機能だ。シンポジウムなど、イベントの情報共有に使われることもあれば、子育ての苦労を名画を通してユーモラスに伝え合う「#名画に学ぶ主婦業」のように、「ツイッター大喜利」に使われることもある。セクハラ被害に対して声を上げる「#MeToo」のように、声を上げることを促し認め合う運動に使われることもあれば、労働時間の規制を外して「定額働かせ放題」を可能にする高度プロフェッショナル制度の危険を伝える「#高プロ川柳」のように、注意喚起に使われることもある。「手放すな 働く誇りと 残業代」。「#高プロ川柳」で気に入っている作品だ。
 ネット署名と違って、ツイッターのハッシュタグには双方向性がある。共通の話題についてつぶやき合うことによって、相互に参照や対話が生まれる。ネット署名がひとつの主張を拡散し、賛同を得るための手段であるのに対し、ツイッターのハッシュタグはアイデアや考え方を交わし合って発展させていく機能を持つことができる。
 そういう機能を生かして筆者が設けたハッシュタグに「#呪いの言葉の解き方」がある。財務省事務次官のセクハラ問題をめぐる財務省幹部や麻生大臣の発言、自民党総裁選における石破氏側に向けられた発言などに見られるように、政権側から「呪いの言葉」が平然と投げつけられるようになっている。「呪いの言葉」を投げられた側は、抗うとその先には恐ろしい展開が待っていると考え、萎縮してしまう。その状況を変えたいと設けたものだ。
 例えば、「嫌なら辞めればいい」と言われると「それができれば苦労はしない」と考えてしまう。「辞めたって、転職は容易ではないし……」と。しかしそれは、相手が投げた言葉に、思考の枠組みを縛られている状態だ。その思考の枠組みでものを考えさせられてしまうのが「呪いの言葉」だと認識して、意識的にその思考の枠組みを、ひとつ上の次元から俯瞰してみる。なぜ相手がそういう言葉を投げてくるのかを考えてみる。そして、相手の枠組みで返答するのではなく、相手が思考を枠づけようとする、その意図に対して返答を考えてみる。そうすると「『どうせやめられないんだろ? だったら理不尽にも耐えろ』というわけですね?」という「返し」を思いつく。それが呪いの言葉の呪縛から解かれた状態だ。対処の出発点だ。
 そんな風に、呪いの言葉の呪縛を解くための「返し」の言葉を「#呪いの言葉の解き方」のハッシュタグで集め、さらにそうして集まった素材をまとめていただける方をツイッターで募り、まとめていただいたのが「#呪いの言葉の解き方」というサイトだ。
 労働をめぐっても、政治をめぐっても、ジェンダーをめぐっても、「呪いの言葉」は溢れている。それだけ、抗うことに対する抑圧が強い。その中でも「#MeToo」「私は黙らない」のように、抑圧の構造を可視化し、抗うことを認め合う動きもある。そこに注目し、促したい。

(うえにし・みつこ/法政大学教授)


コラム・水平線INDEXに戻る



HOME

JINKEN BOOKは、(株)解放出版社が提供しています。 無断転載を禁じます 。
Copyright (C)Buraku Liberation Publishing House Co.,ltd 2001, All Rights Reserved


E-mail

(株)解放出版社
Phone:06-6581-8542(代表) Fax:06-6581-8552
東京事務所: Phone:03-5213-4771(営業) FAX:03-5213-4777