コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2020/6/20up)




◆ こどもたちと挑戦しつづける隣保館でありたい ◆

〈『部落解放』2020年5月号掲載〉

藤本真帆

 「昨日しゃぶしゃぶ食べた」「どんなしゃぶしゃぶ食べたん?」「お湯で肉を茹でただけのやつ」
 これは私が「寿こども料理食堂」をはじめるきっかけとなった会話である。みなさんは「しゃぶしゃぶ」と言ったらどんな食べ物が思い浮かぶだろうか? CMでよく見かける、野菜とお肉がたっぷり盛られた熱々のお鍋を家族で囲む。そしてそれをポン酢やゴマダレにつけて食べる。私が想像したのはそのような「しゃぶしゃぶ」だった。しかし、彼が食べたものは、お湯につけたお肉で、タレなどもなにもない。冷蔵庫には野菜などもたくさん入っていたというのにだ。
 当時は「こどもの貧困」がメディアでたくさん取り上げられていて、主に「経済的な貧困の中にいるこども」の印象がとても強いものだったが、実際はそれだけではない。隣保館職員として、冒頭の彼やその他のこどもたちと話しているうちに気づいたことがたくさんある。食・衣服・教育などの経済的貧困のほかに、頼れる人や相談相手がいない人間関係の貧困、制度や社会資源などを知らない情報の貧困、日常的なことにおいて挑戦することや成功体験がない経験の貧困も「こどもの貧困」に含まれるということだ。私はそのような状況下にいるこどもたちの現状をなんとか打開したかった。
 そこで多様な連携先とボランティアで当財団が運営する民営隣保館「すみよし隣保館 寿」を拠点に、二〇一七年より新たに「寿こども料理食堂」をスタートさせた。こどもたちが自分で料理を考え、作って食べる力をつけること、友だちや地域の人と一緒に食べる楽しさを経験させることを目的とし、以下五つのルールを定めた。@挨拶をするA手を洗うB必ずなにか手伝う (調理・配膳・片付けなど) Cみんなで「いただきます」をするD自分の使った食器は自分で洗う
 こどもたちは年齢や学年に合わせて、配膳や調理をする。「自立を促す」ことも念頭に置き、この三年間でさまざまなことに挑戦してきた。煮る・焼く・炒める・揚げるはもちろんのこと、アジの三枚おろしやルーツのある方に来ていただいて韓国料理やブラジル料理などをつくったりした。運営費が足りなくなった時には、こどもたちとかやくご飯を作り、地元のお祭りで販売したりもした。
 石の上にも三年とよく言われるが、この三年間で延べ一五二一人のこどもの参加があり、こどもたちはすさまじい成長をとげている。調理が上手になり、時間が短縮しただけでなく、年上のこどもが年下のこどもをサポートしてくれるため、ボランティアの負担も減ってきた。参加者全員に気を配り全員分の配膳準備をしてくれ、予算内で食材の買い出しまでしてくれることもある。予想外だったことは、もともと濃い味が好みだった子たちが薄味好きになってきたことや、ときどき参加をしている障害を持った方や高齢者の方の日常的な見守りをおこなってくれるようになっていることだ。
 「すみよし隣保館 寿」でおこなう活動の可能性は大きい。地域活動の拠点として、また地域住民やこどもたちとさまざまなことに挑戦する館として、これからもありつづけたいとつよく思う。

(ふじもと・まほ/公益財団法人住吉隣保事業推進協会 職員)


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