コラム・水平線

月刊誌『部落解放』の巻頭コラム「水平線」を著者のご了解を得て、転載いたします。

(2020/6/20up)




◆ 迷走する大学、困惑する学生 ◆

〈『部落解放』2020年6月号掲載〉

小黒 純

 このままでは「医療崩壊」が起きてしまう——。「東京2020」の年が明け、新型コロナウイルス感染が国内に持ち込まれた頃から、何度も繰り返されてきた警告だ。PCR検査の実施件数を抑制したのも、「医療崩壊を防ぐため」だったらしい。東京都では四月七日、借り上げたホテルで無症状・軽症者の受け入れを始めた。「病床は重症患者らの受け入れに絞り、医療機関のパンクを防ぐ」(毎日新聞)と報じられている。この時点で「医療崩壊」なのではないか。
 「崩壊」状態なのは医療だけではない。表だってはいないが、大学教育の現場も結構怪しい。私が所属する同志社大学(京都市)も例外ではない。四月一日の入学式は取り止めた。しかし、約六〇〇〇人の新入生をわざわざキャンパスに呼んだ。大学側には、「学年暦」を死守したいという思惑があったからだ。予定していた授業開始が遅れると、春学期に一五週間の授業ができなくなってしまう。そうなると文科省からお小言を言われる、忖度したのだろう。
 無理に強行したツケは大きい。新学期早々、ドタバタが繰り返されている。「学年暦」通りに授業が開始されたのに、学生の授業登録が終わっていないという事態に。さらに、その後になって、春学期の授業をすべてオンライン(リモート)で実施すると決めたため、開講自体が取り消される科目も出てきてしまった。学生はあらためて別の科目を追加で登録せねばならない。まさに、前代未聞だ。
 こうした大混乱はすべて大学当局の責任だ。逆に、置いてきぼりにされたのは学生の方だ。特に新入生のことを考えると心が痛む。もし、大学が「学年暦」にこだわらず、授業の開始をしばらく延期し、春学期はすべてオンラインで行うと早々に発表していれば、どうなっていただろうか。
 遠方から通う新入生は、四月からキャンパス近くにマンションやアパートを確保する必要がなかった。平時でも親元を離れて初めての生活が始まるのは不安がつきまとう。そもそも、まだ同級生の仲間もいない。そんなところに、大学当局は次から次へとスケジュールを変更し、オンラインの授業を受けろと言ってくる。「外出自粛」が強く求められるなか、当てにしていたアルバイトを見つけることも難しい。
 学生、とりわけ新入生にとっては、踏んだり蹴ったりではないか。本来、大学に学ぶ学生は、この社会にとって宝物のはずだ。「崩壊」状態なのは医療分野だけではなく、教育分野もそうなのではないか。未曾有の危機の中、大学のメンツなんかどうでもいい。「学年暦」の維持など論外だ。文科省には頼れない。一日も早く、学生本位の大学教育を立ち返らなくてはならない。
 「家にいろ。自分と大切な人の命を守れ。SFCの教員はオンラインで最高の授業をする。以上。」
 慶応大学環境情報学部(SFC)の脇田玲学部長による、非常に短いメッセージが注目を集めた。「最高の授業」は、宝物の学生を預かる自分にも課せられている。

(おぐろ じゅん/同志社大学大学院社会研究科メディア学専攻教授)


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